第5章 番頭さんに珈琲を
別にこのままでもいいんじゃないかって?
残念。呪いは解けないと、私は生活を大きく制限された状態になってしまう。
きっとスティーブンさんは、失敗した私を許してくれるだろう。
でも私は『安全』の名の下、行動の自由を制限されたまま、あの家で半引きこもり生活を、送らされることになってしまう。
それはそれで幸せかもしれないが、私が望むのはそんな未来じゃない。
不安で顔を泣きそうな思いでいると、肩を叩かれた。
「大丈夫だよ、ハルカ。ハルカは頑張ってるんだから」
顔を上げるとレオナルドさんが微笑んでいる。お兄さんみたいに力強く。
「俺もここに来た頃は大変だったけど、どうにかなってるし、死なずに生きてる」
「…………」
「スティーブンさんはホントにすごい人なんだ。その人がついているなら、絶対大丈夫!」
「レオナルドさん……」
私はお兄さんみたいに力強く笑う、彼を見、
「あの、今の私に触れるのはちょっとヤバ――」
「くかー」
「寝たーっ!!」
ああもう! やっぱ全っ然制御出来てないじゃないか!!
「起きて下さいよ!……てか、私が離れるのがいいのか」
呪術リハビリの予約時間が近い。
お詫びは後日か、スティーブンさんを通してさせていただこう。
足早に離れながら考える。
『スティーブンさんはホントにすごい人なんだ』
確かに……そう思う。
「スティーブンさんを、信じよう」
まだ成果は出ないけど、焦らず頑張ろう。
私は公園を出、大通りに出た。
今日は霧が濃いめなせいか、歩く人は少ない。
「昼なのに周りが全然見えないし……そうだ。ルシアナ先生に、記憶喪失のことも聞かないと――あ!」
はたと足を止めた。
そういえば、元々病院は三人で行くんだった。
スティーブンさんの依頼で、私の護衛をしてもらうってのもあるけど、それだけではない。
『病院の内部に人身売買組織が入り込んでるらしい』と院長先生の連絡を受けて、話を聞きに行くんだそうだ。
「早く二人を起こさないと」
公園にきびすを返しかけた。
そのとき。
「!!」
後ろから手袋をした手が私をつかみ、口を塞いだ。
マズいと思った。
でもそのときには、私は道路脇に停めた車の中に、引きずり込まれてしまった。