第5章 番頭さんに珈琲を
前略。
スティーブンさんとこの街で生きることを決意しました。
しかし私の呪いを制御するという試練が、新たに立ち上がりました。
あと今、夜でベッドでいい雰囲気なのにスティーブンさんが先に寝かけてます。
「スティーブンさん~」
置いてけぼりの私は悲鳴を上げるが、スティーブンさんは今にも寝そう。
そういえば、ここ最近、家に帰るヒマもないほど激務続きだったっけ。
丸一日寝ていたかっただろうに、私につきあわせてしまった。
仕方なく私は横になって、スティーブンさんに寄り添う。
いつもの癖で、タトゥーに手を這わせた。
そっと抱き寄せてくれる腕。額に軽いキス。
私が選択すれば、ずっとこの人といられる……。
それはワクワクするような楽しい可能性だった。
…………。
そして眠りに落ちながら、ハタと首をかしげる。
そういえば、呪い以外にも問題が残っていた。
失われた記憶を取り戻さねばならない。
それはどうしよう……。
モヤモヤでもぞもぞと動いていると、
「ハルカ」
「ん?」
寝たと思ったスティーブンさんが起きていた。
「いやらしい子だな。そんなに我慢出来ないのかい?」
「え? は? い、いえ、少々考え事を――」
でもスティーブンさんは起き上がったと思うと、私の両側に手をついた。
「えーと……スティーブンさん。明日はまたお仕事なんでしょう?」
「恋人がどうしてもと望むんだ。つれなく却下するほど冷たい男じゃないさ」
「いえ別に『どうしても』というほどじゃあ――」
手を振ろうとしたけども、キスされて塞がれた。
彼はニヤリと笑い、
「君を満足させられるよう、濃厚な一回にしないとな」
「いえ、もう十分――」
「口答え禁止」
「あーれー」
濃厚だったかはさておき、一回で終わらなかったのは言うまでもなかった……。
…………
…………
そして翌日からもラブラブ生活と思いきや――忙しいことになった。
「ハルカ、起きなさい。ジョギングに行くぞ」
「掃除? いいよ。まずブラッドベリ中央病院に行こう。
ミス・エステヴェスに呪術リハビリプログラムの空きがないか聞いてみよう」
「昼に迎えに行くから、この魔導書を読んで、内容を暗記していてくれ」
……とんでもないことになった。