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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第4章 開き直りました



 震える声がした。

「ハルカ。返事を聞かせてほしい」
「…………」

 考える。

 ずっと今みたいな生活が続けばいいと思っていた。
 でも心のどこかでは『いつか呪いを解いて元の場所に帰るんだ』と分かってた。

 夢の時間はいつか終わり、現実に帰る。

 いやここに留まるのなら、それはそれで現実に向き合わねばならない。
 この街の現実に。
 
「あまりにも危険な選択だということは分かっている。
 ヘルサレムズ・ロットは単なる無法地帯とは違う」

 元ニューヨークことヘルサレムズ・ロット。
 異界と人類世界の境界線。
 法はかろうじてあるものの、ほとんど機能せず、伝説とされていた超常神秘に魔導怪奇現象ですら、この街ではありふれたものだ。

 だが危険度は、外の紛争地帯の比ではない。
 屈強な軍人ですらアッサリと命を落とし、一般市民が理不尽に亡くなったところでカウントすらされず忘れられる。

 平和な表通りだけを歩いていた私ですら、何度も死にかけた。

 ここで生きていくなら、身を守る力が必要だ。

 今まで色んなものに守られ安穏と生きてきた自分に、そんな力が得られるのか。

 ……とまあ、そんな理屈が山ほどグルグルするんだけど。


「はい。では、正式に一緒に暮らしましょう」

 口からアッサリと出てしまってた。

「ハルカっ!!」

 スティーブンさんは心の底から嬉しそうな顔になり、私を抱きしめた。

 ……ま、まあ不安は山ほどある。

 けど『なるようになれ』という、完璧な開き直りである。

 私もスティーブンさんが好きだ。

 離れたくない。

 後先は考えない。
 たまには、そういうことがあってもいいんじゃないかな。

「ハルカ。愛している……」
「私もです!」

 そして二人して長い長いキスをした。

「そ、それじゃあスティーブンさん……」
 キスを終えると、私は期待の目で恋人を見上げた。

 まだまだ夜明けは遠く、お互いに服を着ていない。
 愛を確かめ合った恋人同士がすることは一つであろう。

「じゃ、寝るか」
「はあああ!?」

 だがスティーブンさんはゴロンと横になり、私にバサッと布団を被せる。

「明日から早朝鍛錬を始めるからな。おやすみ」

「ええええ!」

 新たな幕開けを感じた私であった……。

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