第4章 開き直りました
スティーブンさんは私を抱きしめる。
「僕だけに都合の良いように君を絡め取ろうとして……結果、君の意志を踏みにじった」
殺されかけ、仕事は取られ、ニート生活強要され、離れないと約束させられ、薬すり替えられ、挙げ句に呪いは悪化し……。
う、うん。散々だなあ。いやもちろん助けられたことの方が遥かに多いけども。
「段々と君も僕に不信感を持つようになった。当たり前だ。
そして危険な目にあわせてしまった――本当にすまない」
そう言ってキスをした。
「この感情を殺そうと思っていた。でももう、認めるしか無い」
私をぎゅっと抱きしめ、
「僕は君を愛している」
「スティーブンさん……」
「全ては君に捨てられたくないが為……それだけだったんだ」
普通は逆だろう。私みたいのが『捨てないで』とすがるものでしょうが。
「……こうして言葉にするまで、こんなにも時間がかかった。馬鹿だな、俺は」
そう、自虐的に笑う。
そこまで自分を責めることないのに。
現在の状況悪化は、半分くらいは私のポカなんだし。
私はスティーブンさんに向き合い、よしよしと頭を撫でる。そして自分からキスをした。
「ハルカ?」
「スティーブンさん。そんなに大人ぶらず、もう少しガキになってもいいんじゃないですか?」
彼は面食らったように目を丸くし、
「この歳になったら、そう簡単に戻れないさ。馬鹿な真似だって……まあしてる奴もいるが、僕はガラじゃない」
「いえ別にそんなことは全然、全く――……あ、いえ、そうですね。その通りです」
鉄拳制裁の気配を感じ、わたくし、素直に恭順に傾く。
スティーブンさんはまだ話を続ける。
「だけどそうだな……君に隠し事は、なるべくしないと決めた。
もう少しだけ言わせてほしい」
『なるべく』って何ぞ。
でもスティーブンさんは私を抱き起こし、肩を抱く。
そして私の目をまっすぐに見て、言った。
「ハルカ。君が呪いの制御に成功し、ヘルサレムズ・ロットを出ることがあっても――いつか戻ってきてほしい。
そしてそのときは、正式に僕と一緒に暮らしてほしいんだ」
それって……。
何とか茶化そうとした。
でも出来なかった。
月明かりの中のスティーブンさんが、あまりにも真剣だったから。