第4章 開き直りました
何だってそこまで私に執着するんだ。
そこまでして縛らなくとも、私レベルの子なんていくらでもいる。誘えば向こうから寄ってくるだろうに。
そういえば、恋人の真似事も『相手を知れば熱は冷めるはず』と思ってやり始めたことだった。
現実にはどんどんハマってしまっている。
でも私サイドの現実だって、直視してもらわねば困る。
「私、いつかはこの街を出て家に帰らないと。
お父さんとお母さんも心配してると思うし」
ヘルサレムズ・ロットなんて異界都市でスティーブンさんみたいな素敵な人のお世話になる。それは泡沫の夢。分かっていたことだ。
と言っても未だ両親の顔も思い浮かばないんだが。
……私の記憶喪失設定忘れてる人、怒らないから手ぇ上げなさい。
ただスティーブンさんは言いにくそうに、
「ハルカ。君のご両親は――いや、何でもない」
何か言いかけ、すぐに言葉を切り、
「とにかくこの家にいてほしい。
僕のしでかした失態の埋め合わせをしたい。君の呪いの制御訓練をさせてくれ」
「…………でも私は……」
「毎日チョコレートを買ってきてあげるから」
「…………」
い、いや! 餌付けに乗らないから!!
だが私のためらいを、敵は見逃さなかった。
「ホームシアターでサメ映画を観ていいよ」
なぬ!?
「ゾンビ映画もですか!? あとモンスターパニック映画も!」
「……高評価のものなら」
甘いな。レビューの☆5がこの世の真実だと思うなよ。
だが彼が今知る必要のないこと。
「低評価のものも。あとご在宅のおりは鑑賞につきあって下さい!」
「つきあうから、途中で寝ていい?」
「ダメ!!」
「…………」
スティーブンさんはものすごく、ものすごーーーく苦悩に満ちた顔をし、
「…………いいよ」
どうにかそれだけ言ったのだった。
「ではもう少しの間だけ、よろしくお願いいたします」
ペコッと頭を下げると、スティーブンさんはホッとした顔をした。
「ハルカ……!」
私をハグしたかと思うと、そのままソファに倒れ込む。
「ちょ……! 今、昼間だし!」
慌てたけど、スティーブンさんは私に口づけ、
「写真や動画相手に自分を慰める虚しい真似はしたくない。
ハルカ……今、君を抱きたい」
……え。動画もあるの?