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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第4章 開き直りました




 昼下がりのスティーブンさん宅。
 そこではさっきと打って変わって、不穏な雰囲気が漂っていた。

「君の呪いを悪化させたことは謝る。隠し事を重ね、不信感を募らせ不安にさせたことも。
 けど、それとこの家を出て行くのは別の話だ。許可は出来ない」

「何であなたの許可がいるんですか」

「ここは安全なおうちじゃない。屈強な軍人でさえ容易く命を落とす街だ」
「悪党など、私のこの呪いで眠らせて――」
「そんな軽微な呪い、いくらでも対策が出来る」
 ピシャッと言って、

「君は武器の使い方も分からない、呪いを負って日常生活が困難な女の子だ。
 外で生きる危険がどれだけか、分からないわけじゃないだろう? 現に僕に会う前は死にかけていた」
「うぐ!」

 私は言葉につまる。い、いや、でもですよ!

「そりゃ感謝してますよ。死にかけのところを泊めていただいて、お世話になって、お小遣いもらって、その他にもたくさんご面倒を……」

 あかん。どんどん声が小さくなっていく。
 スティーブンさんはうんうんと頷き、

「だろう? 僕は君の恋人だが、同時に君の保護者でもある」
「ええー」
「君の呪いを悪化させた責任もあるし、僕のところにいてもらわないと」

 いや……呪いを悪化させた張本人がどの口で言うんだ。
 だがスティーブンさんは厳しい顔だ。

「それにいくら病院の助言があるとはいえ、呪術知識のない一般人が、単独で制御訓練なんて不可能だ」
「やってみないと分からないでしょうが!」

「独学でプログラミングを一から覚え、ソフトを組めるのか?
 工具と木材だけ渡されて、本棚を作れと言われたら作れるのかい?」
「…………えーと……」

「病院はそこまで親切じゃない。呪いの制御訓練なら僕がしてやれる」

 ……自分で悪化させて自分でアフターケア。
 今日のスティーブンさんは矛盾の固まりである。

「そこまでして下さるのなら、何だって薬をすり替えたんですか。無意識にしても動機くらいあるでしょう?」

 すると、スティーブンさんは恥じたように目をそらす。
 そしてずいぶんと長い沈黙の後に、


「呪いが強くなれば、君は本当にどこにも行けなくなる。
 僕の庇護無しには生きられない。そう思ったのかもしれない……」


 スティーブンさんらしくない、小さな声だった。
 私もまた、沈黙した。

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