第4章 開き直りました
「家族を人質に取られ背負わされた『力』を捨てることも出来ず、一縷(いちる)の儚い望みに賭け、彼はこの街に来た」
誰のことだろう。会ったことがある人なんだろうか。
「多かれ少なかれ僕らは皆、そういう足枷を負って裏街道を歩いている。
そして引き寄せられるようにヘルサレムズ・ロットに集うんだ」
「……で、『下には下がいる』と諭したところで、ご自分の行為をどう正当化出来るって言うんです」
私は冷ややかに言う。
「……信じてもらえないかもしれないけど、薬のすり替えは無意識にやっていたことだ」
「はあ!?」
「君に言われてハッと思い出したよ。君が深く眠っているときに、こっそり君の部屋に入り、よく似た偽物とすり替えた。
夢だったのではと思うこともあったよ。自覚はなかった」
いや無意識って。夢遊病じゃないんだから……。
「……自分が、こんな卑怯な真似をする奴だとは思いたくなかったのかもな」
スティーブンさんが私の肩に顔をうずめる。
そうすると、何だか子供みたいだった。
「君の期待を裏切りたくなかった……君に頼れる大人だと思ってほしいと、そう願っていた……なのに……」
「いや頼れる大人ってか、うさんくさい大人だと思ってまし――いだだだだだっ!!」
こんなときに制裁をしてくんなっ!!
「はあ。どうして君は、いつも底抜けに脳天気かなあ。本当に気が抜けるよ」
あれ? 何か重い空気が霧散してない?
わ、私のせい? 空気を読まなかったから!?
「私の責任っすか!?」
「そうだよ。もう責任取ってくれよ」
「え? は? はああ!?」
突然に抱き上げられたので、目をむく。
「離して下さい!! 今は真面目な話の最中でしょう!?」
「君が空気を乱すからだろう?」
どんな空気だ!! だが敵は私をひょいと肩に抱き上げる。
「明日、全部話すし、そのときじっくり謝る。だから今は――」
「今は?」
「君と寝たい」
……あー、そういえば、ここ最近多忙で、めっきりご無沙汰でしたなあ。
「納得出来るか!! は・な・せ!!」
「はいはい。良い子だから大人しくしような。いやもう、話す気力も無いというか」
スティーブンさんは、私が頭を叩こうが髪を引っ張ろうがスルーし、寝室に向かう。
絶対、面倒くさくなっただけだろう!!