第4章 開き直りました
私が距離を取っていないせいか、異界人はまだ寝ているようである。
悪党の仲間と思われても困るので、私は茂みの中でピタリと動きを止め、息を押さえた。
茂みの向こう、すぐ目と鼻の先に、悪党の身体と……やはりというかザップさんの足が見えた。
そして次に聞こえた声に、完全に凍りつく。
「どうした、ザップ」
「いやおかしいんですよ、スターフェイズさん。追いかけてきたら、こいつ、こんなとこで爆睡してて」
茂みの中にうずくまり、私は手で口を押さえた。
どういう偶然だ。物理的だけじゃなく、運命的にもリアルで呪われ始めてんのか私っ!!
スティーブンさんが!! さっき私に、家に戻れって言ったスティーブンさんがすぐそこにっ!!
マフィアなら地上げでもしてればいいでしょうが! 何で悪党退治してんの!!
いやいやいや。大丈夫。私が隠れているのは、よくあるしげみの中!
まさか人が隠れてるなんて誰も気づかないだろう!!
私はテンパリつつ自分を必死になだめた。
「何かの薬物反応っすかね? ヤバいやつキメて、こんなとこで効いちまったとか」
「それはおまえだろう。よりにもよって作戦集合時間に寝ている奴があるか」
ギクッ!!
「まあいい。とにかく運ぶぞ。こいつの超圧縮原子核砲を回収しないと大変なことになる」
「うーっす」
どうやら彼らはすぐ、ここから離れてくれるようだ。
ホッとした。
そしてクズはポケットに手ぇつっこみ、悪党に近づく。
「……スターフェイズさん。何か技、使いました?」
「使うわけがないだろう」
「いや、何か急に涼しくなったから」
……冷や汗が流れた。
今の時期、私の春の気候はむしろ涼しく感じるレベルだ。
「おまえ、自律神経がおかしくなったのか? 血法に影響が出るのなら前線への配置を考え直すぞ」
「えー!! ちょっと! そんなんじゃないですって! こっち来てみて下さいよ!!」
「うるさい! とっとと運べ。始末書を書かせるぞ!!」
スティーブンさん。柄が悪いなあ。
「ったく、飼い猫に会えないからって八つ当たりしてんじゃねえよ」
ザップさんがボソッと愚痴ってた。
……飼い猫?
とにかくスティーブンさんの靴音は遠ざかっていく。
どうやら見つからずに済んだようで、ホッとした。