第4章 開き直りました
真っ青になる私に先生は続けた。
「あ、別に別れろとか二度と会うなって言うことじゃないから」
「そ、そうなんですか?」
ホッとするけど、
「つまり『家』を出ればいいのよ」
「家って……でも、私、あの家で普通に呪いの力出してましたけど」
冷凍ローストビーフ解凍したりとか。
先生は気楽に笑い、
「まあ『家』って良くも悪くも、その人の縄張りだし、言うなれば『力場』だからね。ちょっと萎縮しちゃわない?」
……してる。
自分の空間ではない、いつかは出て行く場所だとどこかで思っていた。
でも……。
朝食を準備してくれるスティーブンさん。
新聞片手に珈琲を飲むスティーブンさん。
朝、ベッドの中で私を抱きしめ、微笑んでくれるスティーブンさん。
それらが浮かび、消える。
離れたくない。ずっと、そばにいたい。なのに呪いのせいで――。
「で、家を出て今度はあなたの『家』を確保し、自分の『力場』を作る」
「は?」
少女漫画チックな気分だったのに、現実に戻された。
「その上で、呪いを制御する訓練をすることね」
「はあ!?」
私は目を丸くした。
…………
…………
「…………」
とぼとぼと家路を急ぐ。いや、もうすぐ『家』でなくなるかもしれない場所だけど。
「ずっと甘えてたから、天罰だったのかなあ」
いやいや、このヘルサレムズ・ロットでは神様ですらありふれた存在だ。
こんな卑小な存在を一々顧みたりはしない。
ただ、スティーブンさんのご厚意に甘えた生活が、現状に結びついたというのは単純にショックだった。
夕暮れのストリートを雑踏に紛れ、一人とぼとぼと歩いた。
「でもどうやってスティーブンさんに言おう」
そもそも働き始めただけであんなに騒がれたのだ。
い、いや、添い寝カフェというチョイスも不味かったのだが。
「というか勝手に外に出るなって言われてるのに出ちゃったしなあ」
基本、大人で優しい人ではあるが、決めたルールを破った場合は厳しい。
嫌われたくないー。
頭を抱えていると、
「ん?」
通りの人たちがこっちに向かって逃げてきてね?
あ、何人か私にぶつかり、即寝した。
「ち、ちょっと! 起きて下さいよ!!」
呪いの被害者を起こそうと、その場に留まり四苦八苦した。
そのとき――。