第4章 開き直りました
某日。
冷酷非道な家主は、ソファに頬杖つき、悪魔の言葉を吐く。
「運動しよう、ハルカ」
「そんな! スティーブンさんったら昼間っからエッチ♡」
私は両の頬に手を当てて照れるが、
「いや普通に運動。スポーツだから」
……ちっ。ごまかされてくれなかったか。
「若いんだから大丈夫です♪」
元気をアピールしてみるが、
「じゃ、柔軟性のテストをしようか。はい、立って手のひらで床を触ってみて」
「もちろんお任せを!……あ、あれ?」
意気揚々と立ち上がり、軽々と床に手がつく――はずが、ギギギッと身体がきしむ!
指先が床につく直前で、身体がそれ以上の進行を拒んだ!
「やっぱり身体が固くなってるじゃないか」
こら! 隣で楽々と床に手をつけんな三十代!!
「この前、君が子犬になったときも、落ち着いた後は、元に戻るまでずーっと僕の膝の上で寝てただろう? 老犬だってもう少し活発に動くぜ?」
「いいいいえ、そそそそれはででですね!!」
スティーブンさん、私の身体に手を添えて関節を動かし、ゴキゴキ鳴らして悲鳴を上げさせつつ、
「君、僕の家に来る前から、ちゃんと運動していなかっただろう」
「ギクッ!!」
「君の歳でこれだけ身体が固いのはヤバいぞ?」
私の背中を押してくるスティーブンさん。やっぱり手は床につかない。
「痛い痛い痛い!! だ、大丈夫です! 身体が固くても困らないしっ!!」
「外の平和な世界ならね。でもここはヘルサレムズ・ロットだ。
いつ何時、トラブルに巻き込まれるか分からないし、身軽なのに越したことはない」
「ええ~」
「不満そうだから聞くけど、最近、僕がいないときはどうやって過ごしてる?」
「…………」
スティーブンさんをお見送りしたら軽く掃除。
だいたい午前中に終わるから昼まで昼寝。
その後はお小遣い持って外に散歩に行って、公園のベンチでボーッとする。
日が傾いたら家に帰って、夕食の下ごしらえをして、またソファで一眠り。
「………………」
わたくし、両手で顔を覆い、自己嫌悪の渦に呑み込まれたのであった……。
「ハルカ、ハルカ。大丈夫。まだ取り戻せるから。大丈夫だから」
私を抱きしめ、よしよしと頭を撫でるスティーブンさんだった。