第4章 開き直りました
沈黙。
「ハルカ」
声に圧力が混じってる! ついでに若干の冷気を感じたのは気のせいか。
「いや、ちょっと待って下さい!!」
カッコいい。いや単純すぎね? もちろん好きなとこは山ほどあるんだけど、こう、言葉にしようとすると漠然としすぎてて、まとまらないっつか。
「じゃあ続けるよ。優しいとこ、一生懸命なとこ、掃除を頑張ってくれるとこ、いつも笑顔なとこ、意志が強いとこ、安易に他人に頼らないとこ――」
「待って待って待ってっ!!」
ヤバい。相手がどんどんカードを出してくる!!
仕方ない。
「えとえと! カッコいいとこ、大人なとこ、料理が美味しいとこ! ええと、それから……」
慌てて褒め言葉を連ねる。
ええい。浮かばないワケじゃないのだが、語彙(ごい)力がねえ!
スティーブンさんの素晴らしさを表現する言葉がだな、こう――。
「いつも春みたいに暖かいとこ、機嫌が良いと花の香りがするとこ、冷凍食品を一瞬で解凍してくれるとこ――」
「は、花の香り!? そんな追加設定聞いてないし! というか二番目と三番目の落差がひどい!!」
「ハルカ。カウントダウン行くぞー、5,4,3……」
「ええと、氷の蹴り技がカッコいいところ!」
「カッコいいはもう言ったからダメ。2,1……アウト!」
敗北っ!!
「はい、僕の勝ち。良かったな、ハルカ」
何がっすか。
私はぶしゅーっと、闘気を根こそぎ奪われ、スティーブンさんにしなだれかかる。
「とんでもない誤算でした……まさか、私がそこまで美点のかたまりだっただなんて」
すると敵は冷気をまとった笑顔で、
「ハルカはいつも面白いなあ。僕は、もう少し君に色々褒めてもらえるんじゃないかって期待してたんだけどね」
「いだだだだだだっ!」
こぶしで頭をグリグリしないで。語彙が貧弱なんすよ、私!
「仕方ありません。私が敗者。煮るなり焼くなりお好きなように」
ヨヨヨと涙で袖を濡らすと、スティーブンさんは嬉しそうに、
「そっかそっか。じゃあさ、今日は少し僕と運動をしてみようか」
やっぱりそう来たかー。私は少し頬を染めつつ、
「ちょっとだけですよ」
「ああ、分かってるよ。とりあえず、一緒にジョギングしてみようか」
……は?