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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第4章 開き直りました



「ああ、分かった。すまないが家で書類仕事をさせてもらうよ。
 ――ハルカのしつけもしなくちゃいけないし」

 スティーブンさんの足下から冷気が立ち上ってる気がするが、なぜであろう。

「しつけ? 何を言っているのかね、スティーブン。
 ミス・ハルカは数日で元の姿に戻るのだろう?」

「ハルカは一般人だからね。僕より回復が遅くなる可能性が高い。
 ハルカが大けがしたら大変だろう? しつけは必要不可欠だ」

「む。それは一理あるな」

 うわあああ! 丸め込まれないで下さい、クラウスさん!!

 ソファの後ろに隠れていた私だが、クラウスさんが目線を合わせるように、離れた場所から片膝をつく。
 
「ミス・ハルカ。あなたを巻き込むことになり慚愧(ざんき)の念に堪えません。
 この後のことはスティーブンにお任せを。彼が――」

「そうそう。僕が面倒を見るから心配するな。だからハルカも怖がらないでこっちにおいで」

 怖がるわっ!!

 私はソファの後ろできゅーんきゅーんと身体を縮めている。
 大変にずんぐりむっくりな、愛らしい柴犬の子犬と化して。
 
「では頼んだぞ、スティーブン」
「ああ任せておけ、クラウス」

 いやああ! クラウスさん、帰らないでー!!

 だが貴重な味方は非情にも去って行ってしまった。

 あとには私とスティーブンさん。

「――さて」

 敵の声色が変わる。空気は冷たさを帯び、こちらを見る目には復讐への愉悦が混じるっ!!

「昨日は人前で、ずいぶんと恥をかかせてくれたな、ハルカ」

 えええ!? 皆の前で芸をさせたこと? あれは仕方ないじゃないですか!!
 そもそもあなたが散歩に行かず、大人しく家にいたら、あんなことには!!

 だが口から漏れるのは、きゅんきゅんと情けない子犬の声。

「家の中にいては気が塞ぐだろう、ハルカ。
 公園に散歩に行こうか。そこでしつけ教室といこう。
 ああ、昨日みたいに誘拐犯に目をつけられたら困るから、ちゃんとこれをつけてね」

 心底から楽しそうなスティーブンさん。
 その手には、真新しい首輪とリード。

 いやあああああっ!!

 哀れな子犬の悲鳴と、邪悪な大人の笑い声が響く。


 平和なスティーブン宅の朝であった……。


 ――END
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