第4章 開き直りました
うららかな公園の昼下がり。
「スティーブンさん、もう帰りましょうよ~」
ふっさふさの首毛に顔をうずめるが、畜生はまだ動きたいらしい。
さっさと立ち上がると、私を引きずり、ずりずりと動こうとした。
「スティーブンさんってば!」
もういっぺん背中に乗り、耳を引っ張っていると。
「あの犬でっけえ!」
「超カッコいい!!」
「いいなあ、背中に乗りたい」
散歩中の人々が、こちらを見ている。
まあスティーブンさんは通常のオオカミより二回りはでっかいし。
『カッコいい』と言われると何だか私まで嬉しい。
「うわ!」
スティーブンさんは機嫌を急降下させた。
そして私を乗せたまま、とっとと走り出してしまった。
なのでそのとき。誰かが、とりわけ熱い目でこちらを見ているのに気づかなかった。
…………
巨大オオカミは、人のいなくなったあたりで足を止めた。
「スティーブンさん、いきなり走り出して怖いですよ。私が落ちたらどうするんです!」
背中から抗議したが、やっと注目されなくなったためか畜生は涼しい顔である。
尻尾を振りながら、私を背に乗せ、木漏れ日の下を歩いて行く。
……何か楽しそうだな、スティーブンさん。
今日はものすごく、感情がよく分かる。
この人は笑っていても本心が見えないことが多い。
もちろん、大事にされているし、感謝している。
けど、本当に私といて楽しいのか。実は怒っているんじゃないか。ガキの世話にうんざりしてきてるんじゃないか。
考えるだけ無駄だと分かってても、勝手に考え凹んでしまうのだ。
でも今のスティーブンさんはものすごく分かりやすい。
怒るときはうなるか噛むし、嬉しいときは尻尾を振る。
だから、私もとても楽しい。
「でもスティーブンさん、もう本当に帰りましょう?
安静にしてた方が早く治るんでしょう?」
スティーブンさん。ちょっと鼻面にしわを寄せたけど、うなずいた。
そして自宅に向け、ゆっくり方向転換を――。
「あ!」
大声を聞いた。
つい声のした方向を見ると、
「……セバスチャン!!」
向こうから普通の女性が、ツカツカとこちらに近づいてきた。