第4章 開き直りました
目が覚めると、何やら枕が暖かい。
そして頬や唇に、湿ったものが触れている。
「んん?」
あれ? スティーブンさんの背中で寝たはずなのに。
見ると目の前に、優しい目をしたオオカミがいた。
いつの間に背中からズリ落ちたらしい。
私は横になったオオカミさんのお腹を枕に寝ていた。
でもそのお顔が、あまりにも近くにあって、私はつい、
「きゃー。食われるー」
…………
…………
半時間後。私たちは外にいた。
「スティーブンさん~、もう機嫌直して下さいよ。謝ったでしょう?」
ゆらゆら揺れながら声をかけるが、スティーブンさんは無視して街を歩いて行く。
スティーブンさん、度重なる動物扱いに、完全にヘソを曲げてしまった。
勝手に出て行こうとするので、止めようとして背中に乗ったけど、今度は私を乗っけたまま歩き出してしまった。
気分転換なのか、犬みたいに『散歩』したいのか、とりあえずブラブラするらしい。
まあ妖獣魔獣が普通にうろつき回ってるヘルサレムズ・ロットだから、そこまで注目されてないのが不幸中の幸い。
だからといって長時間ウロウロするのも良くないだろう。
「もう帰って休みましょうよ。ね?」
ちょっと怒りが収まってきたかな。
鼻面のしわは取れた。でも歩みは止めない。
「公園に行って、走って帰りましょうか」
頭を撫でると、スティーブンさんはどうにかうなずいてくれた。
数十分後……。
「待って。待って待って待って。もう無理……!!」
全身汗だく!! 足が筋肉痛で激しい悲鳴を上げている。
一方スティーブンさんは、打って変わってご機嫌である。
『だらしないぞ』と言いたげに私の周囲をウロウロ。
「人間がジョギングコースを全力で走り続けられるわけがないでしょうが!!
今のあなたはオオカミなんですよ!?」
だがスティーブンさんは、全力疾走の後で尻尾振りまくってる。
公園のジョギングコースを、何周かしようかということになったのだが……スティーブンさんが私と一緒に走りたがった。
結果、死にかけてます。
「もうヤダ! 私だけ帰るから好きに走ってって下さい!」
怒って怒鳴るけど、今度は私の服の裾をくわえて引っ張る。
……これ、ホントに中身スティーブンさんなの? 普通に動物入ってない?