第1章 連れてこられました
「ヘルサレムズ・ロットにおける失踪は死亡と同義と見なされ、保険金が支払われます。そのためでしょう」
「ついでに臓器売買業者に売れば二重に金が入る、という寸法か。人の顔をしたケダモノだな」
「一旦病院に運んだのは、保険会社の調査を考えてのことかと。
事故を装い病院に運び込み、その後病院関係者に扮した臓器売買業者が引き取り、足取りの追跡を絶つ予定だったようです」
「こざかしい知恵だけは回る」
「しかし、たまたま当日に警察の手入れが入り、業者が逮捕されたことで難を逃れたようです」
「さて、本当に逃れたかどうか……」
私はぼーっとそれを聞いていた。意識が混濁して、頭が働かない。
眠い。寝てしまおう……。
「保険金だけでは足りなかったようですね。彼女の両親は夜逃げし、所在不明です。
『外』でのことですので、それ以上の調査は……」
「必要ない。実親と再会したところで、また売り飛ばされるだけだ」
「では彼女はいかように」
「…………」
沈黙があった。
「必要とあらば、この場で、眠るように苦痛無く『処分』することも出来ますが」
一分ほど沈黙があった。
「『今は』止めておこう。クラウスに彼女の存在が知れている。今不自然に彼女がいなくなれば、彼は『僕のため』この子を探すと言い出すだろう。そうなったらいささか厄介だ」
「でしょうね、あの坊ちゃんなら」
「慣れてるさ――ご苦労だった。後は僕がやるから、休んでくれ」
「はっ」
ホッとして、私の意識はゆっくりと沈んでいく。
「……何か言いたそうだな。情を移したりはしない。自分が刃だと忘れることはないよ」
「そうだとよろしいのですが」
「信用がないな」
少しだけ笑う声を聞き、私は闇に落ちていった。
…………
気持ち悪い。頭がガンガンする。現在、40度近い高熱がでている。
吐いても吐いても吐き足りない。水を飲んでも吐くので、点滴をされていた。
「すみません……ご迷惑を……」
「いいよ、気にしないでくれ」
スティーブンさんは深夜にもかかわらず、嫌な顔一つしない。
高熱を出した私の世話をして下さった。
「今までの疲れが一気に出たんだろうね。ゆっくり休むといい。ここは安全だ」
「はい」
スティーブンさんの親切に涙が出そうになりながら、私はうなずいたのだった。