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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第1章 連れてこられました



 いそいそとリビングに向かうと、テーブルの上に昼食が置かれていた。
「あの短時間で……!?」

 パンにミートローフにサラダ。家事力の差を思い知らされる。
 そして『いただきます』と手を合わせ、静かな広いリビングでもくもくと食べた。
 その後はすることもなく、のんびりした。


 昼なのに霧に包まれた変な街。
 都会のビル群、遠くに聞こえる車の音に雑踏。

「スティーブンさんには、本当に感謝しないと……」
 ソファにもたれ、あくびをした。
「あ、そうだ。夕食、どうするんだろ」
 遅くなりそうなことを言ってたけど、用意されてるのは昼食だけだ。
 ま、いいか。別に一食抜いてもいいし。

「何か眠い……」

 あくびをした。さっきの部屋に戻ろうか。ベッドで寝たい。でも、どうにも眠気が抑えられない。

「でも何で、こんな急に……」

 変だなと思う間も無く、私はソファで眠り込んでしまった。

 …………

 …………

 声が、聞こえる。

「どうだった?」
 スティーブンさんの声だ。

「各種検査を実施しましたが、不審物は何も」
「自白剤の結果は」
「そちらも、これといった証言は出ませんでした」

 聞いたことのない声がした。私は少し薄目を開ける。

 混濁した視界に、スティーブンさん。
 それと、見たことのない黒衣の怜悧な青年が見えた。

 私、さっきこの人に、色々聞かれたような……。

 真っ暗な部屋にライトが一つきり。
 私は裸の上に毛布をかけられて、寝台に寝かせられているらしい。

 ぼんやりしているとスティーブンさんと目が合った。

「半覚醒状態じゃないか。大丈夫か?」
「ご指示の通りに、安全性の高い自白剤を使用しましたので。
 副作用として後で高熱は出ますが、尋問の際の記憶は保存されません。ご安心下さい」
「分かった」

 自白剤に安全性とか、あるのかな……と思いながら目を閉じる。
 
「彼女の身元は?」
「完全に判明いたしました。こちらです」
 私がうつらうつらしている間に、書類をめくる音。そして舌打ち。

「呆れるほど予想通りだな。いくら莫大な借金を背負ったからとはいえ、犬猫を捨てるように実の娘をヘルサレムズ・ロットに捨てるとは。
 万が一にも、家に戻れないよう下手な呪術までかけ、何とも小心なことだ」

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