第4章 開き直りました
クラウスさんはスティーブンさんをどうにかなだめると、
「では、私はこれにて失礼いたします。緊急事態が発生した際はすぐ私にご連絡下さい」
『え! もう行っちゃうの!?』と思ったけど、クラウスさんは帰る感じだった。
そして私に深々と頭を下げ、
「ミス・ハルカ。どうかスティーブンをよろしくお願いいたします」
「あ、は、はい! おまかせを!!」
つい応じてしまった。真摯(しんし)に頭を下げられては断れない。
「ではこれにて」
クラウスさんは執事さんを伴い、リビングを出た。
パタンとリビングのドアが閉まり、ほどなくして玄関が開閉、オートロックがかかる音がした。
しーん……。
リビングには途方にくれる私と、巨大オオカミが残された。
「えと……スティーブンさん……ですよね?」
分かってはいるけど、つい聞いてみた。
ヘルサレムズ・ロットは何があってもおかしくない都市だと聞いてるけど、にわかには信じがたいものがある。
スティーブンさんは座ったまま、じっと私を見ていた。
うう。さっきは感情分かりやす!と思ったけど、こうして単に見られてるだけだと緊張感しかないわ。
人間の時点で何考えてるか分からん人だったのに、こうして動物になられてコミュニケーション取れるのかなあ。
「!!」
あ、こっちに近づいてきた。しかしやっぱりデカい。
デカいクラウスさんと並ぶと普通の大型犬に見えたけど、こうして見ると、昔動物園で見たオオカミよりでっかい。
野生動物というより、妖怪に足を踏み入れてる。
そしてスティーブンさん、近くまで来た。
ふんふんと、私の周囲をまわり、匂いを嗅ぐ仕草はオオカミそのもの。
でもチラッと私を見上げる目は優しく『こんなことになっちゃって、面倒をかけるね』と言ってるよう。
だから私も安心して微笑み、
「お手!」
……頭突きされた。ものっそい力でソファに押しつけられた。
「すみません! 調子こきましたぁ!!」
止めろ。謝ってんだろ。体重かけてくんな。
今のあなたは余裕で100kg越えだ。つぶす気かっ!!
「分かりました! 冗談です! オオカミになってもスティーブンさんはスティーブンさんですから!!」
よーしよしよし!と猛烈に頭を撫でると、巨大オオカミはどうにか離れたのだった。