第4章 開き直りました
「え? ザップさん!? ちょっと、ザップさん!!」
ゆさゆさ揺さぶるが、ザップさんは爆睡してる。
「……疲れてるんですか? ザップさん! お財布取っちゃいますよ?」
懐にゴソゴソと手を忍ばせ、そーっとお財布を取る。
「うっわ、小銭しか入ってないし!……じゃない」
おかしい。
ザップさんは、スティーブンさんの部下で、このヘルサレムズ・ロットで、肩で風を切って歩けるだけの実力を持っている。
それが素人の小娘に、懐に手を入れられノーリアクションはありえない。
考えられる可能性は――。
「私の呪いのせいで寝た? でも今まではこんなに強くなかったのに。薬だってちゃんと飲んでるし……」
自分の懐に手をやった。そこには肌身離さず持っている――呪いの進行を抑える薬が入っている。
薬はいつも、私に代わりスティーブンさんが病院からもらってきてくれる。
「……あ、あれ?」
まじまじと見て気づいた。
いつも何も考えず飲んでたけど、薬のデザインが変わってないか?
よく見なければ分からない、些細なものだけど。
「…………」
私は急に怖くなり、慌ててベンチを離れた。
少し遅れて後ろから、
「ザップさーん!! こんなとこで呑気に昼寝しないで下さいよ!!
起きて!! 作戦集合時間ですよ!! スティーブンさんがすごい怒ってるし!!」
レオナルドさんだ。
『スティーブンさん』と聞き、私はビクッとする。
「ん~? あれ? あのクソチビ、どこ行った~?」
「知るか! あんたが寝たからハルカも呆れて帰ったんだろ! もう行きますよ!!」
「いってえ! 引っ張るんじゃねえよ、陰毛頭っ!!」
ぎゃーぎゃーわめきながら、お兄さんたちが公園から去って行く。
私はそれを見送り、しばし迷った。
「作戦集合……」
そのときスマホが鳴った。いつもの安否確認のメッセージか。
”あまり外を出歩かないで早く帰るように”
おかんかっ!! 相変わらずGPSで私の居場所把握してるし!!
けどすぐ我に返り、迷った。
「……どうしよう」
『僕の言うことを聞いて、決してそばから離れないと』
いつかの夜、誓わされた言葉が脳裏に浮かぶ。
けど。
「行こう」
私はスマホを公園のしげみの中に慎重に隠した。
そして公園を出て、一人走り出した。