第4章 開き直りました
「少し遅くなるかもしれない。何か食べたいものはあるかい?」
しかしどこから電話かけてるんだろ。爆音とか、銃声とか聞こえるんだけど。
「もちろんスティーブンさん♡」
「分かった。楽しみにしていてくれ」
ブツッ。
「そ、それも冗談っす……」
熱いのに冷や汗かきかき、沈黙するスマホにつぶやいた。
「もう寝よ」
私は布団をかけなおし、横になった。
心配してもらってるんだから、もう少し嬉しそうにした方が良かったのかなあ。
こういうのは、よう分からん。私はジョークも下手だし、大人の男性との気の利いた会話とか、無理だなあ。
「迷惑かけてばっかだ……」
窓の外の霧の空を見ながら、呟く。
こんなことしてる場合じゃないのに。
「まず呪いを解かないと」
自分の目的を再確認する。
止められようが何されようが、これだけは決定事項だ。
このままでは、ホントにスティーブンさんから離れられなくなってしまう。
「……言うことを聞くって、約束させられたけどね」
ま、まああれはベッドのことであり、私が色々やらかすから保護者的な意味で言ったんだろう。
多分。
……でなければちょっと怖い。
そのとき、ポチャッと氷のうが音を立てた。
「氷、もう溶けたんだ」
氷のうを額から外し、首を傾げた。高熱だとこんなに早く溶けるのか。
「新しい氷、足さないと。てか、どうやって砕――」
…………。
目を少し見開く。
私の身長ほどもあった氷の塊は完全に溶けていた。
タライのフチギリギリまで張られた水が、小さく波紋を立てていた。
…………
…………
「ハルカ……」
誰かが私の耳を軽くはんでいる。
「んん……」
「ほら、ご所望のものが来たぞ、こっちを向いて」
「ご所望? 四等が当たった宝くじとかですか?」
「…………。何で君は、願いがどこまでも庶民的なんだろうね」
軽く侮辱を受けた気がして、わたくし、目を覚ます。
「ん?」
振り向くと、優しい目の伊達男が隣に寝ていた。
「ほら、ご希望の『僕』だよ」
「スティーブンさんだー」
喜んで抱きついた。スティーブンさんも嬉しそうに、
「ただいま、ハルカ」
「おかえりなさい、スティーブンさん!」