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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第4章 開き直りました



 お兄さんは無言で歩くだけで、私に一言も話しかけてこない。

「スティーブンさんって、ホントにマフィアだったんですね」
「お姉さん、かわいそうですよ、手当てしてあげないと」
「あの大きな人たち、つぎはぎの下はどんなお顔なんですか?」

 ふらふら歩きながら、ろれつの回らない舌で話しかける。
 でもお兄さんは一言も返事を寄こさない。
 やがて周囲が温かく、廊下が明るくなってきた。
 窓の向こうでは、地平線から光が生まれようとしている。
 
 そして私の寝室についた。お兄さんが丁重に扉を開けてくれる。

「ベッドだー」

 私は喜んで、ベッドにふらふら近づいた。
 そしてベッドに飛び込もうとすると、

「寝るまえに、こちらをお飲み下さい」

 スッと、コップを差し出された。
 透明な水。中にキラキラと、何かが浮いていた。
「きれい……」
 私は受け取って、一気に飲もうと――して、止めた。
 お兄さんをボーッと見て、首をかしげた。

「大丈夫?」
「発熱はありますが、後遺症はありません。ご安心を」
「ちがくて。スティーブンさん、大丈夫?」
「…………」
 
 眠気で頭がいつも以上に馬鹿になっている。
 私はとろんとした目で、お兄さんに聞く。

「心配はいりません。あの方は大丈夫です。あなたがそばにいて下されば」

「ん。分かった」

 何が分かったのか、自分でも謎だったけど、一息に水を飲み干す。

「あ……」

 水に混じった何かが喉に溶けた瞬間に、全身の力が抜ける。
 コップを持ったまま倒れた私を、誰かがそっと抱き留めた。

 …………

 …………

 スティーブンさんは体温計を確認し、厳しいお顔だ。
「39.2℃か」

 私は高熱であえいでいた。
 何でだ。起きてみたら、ムチャクチャ熱が出てた!
 やはり昨日のアレが原因なのか!?
 昨日のアレを見てしまったから!

 …………。

『昨日のアレ』って何だっけ。
 ……昨日は朝、スティーブンさんに送り届けてもらって、自撮り写真に関するアホなやりとりをして、家のお掃除をして、それから……それから……。
 
 分からない。高熱で思考がすぐに霧散する。

「すみません……ご迷惑、おかけして……」
「いいんだ。僕こそすまない。本当に」

 なぜスティーブンさんが、とても辛そうにするのか分からなかった。

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