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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第4章 開き直りました



「冷気……スティーブンさん……」

 寒さを感じる方向へ、よろめきながら歩く。
 それにしても嫌な夢だ。足が止められない。

 私はさらに階段を下りて、真っ暗な廊下を歩き、いつ目が覚めるのかと思いながら歩いた。

 いつの間にか、床はむき出しのコンクリートになっていた。

「……血……」

 暗い廊下に、点々と血が落ちている。冷気もそれを追うように強くなる。

 まるで闇の底に私を導いているようだ。

 そして、大きな扉の前に来た。そっと私は扉を開ける。

「……ぐっ……うぐ……っ」

 女性の声。どこかで聞いた気がする。でもあまりにもくぐもっていて、よく分からない。
 中は裸電球がついた寂しい空間。どこかで見た気もする。
 私はまぶしさに目が慣れず、光から目をそらし、床を見た。血だらけだ。

 爪。きれいなネイルの爪が、いくつか落ちている。
 これもどこかで見た気がした。

「やれやれ。睡眠薬に耐性がついてきたか?」

 スティーブンさんだ。
 寝かけていた私は、かすかに顔を輝かせる。

「…………っ!!」

 ゾッとした。

 そこにいたスティーブンさんは、今まで見たことのない怖い顔をしていた。

 闇。
 
 そうとしか表現しようがない、圧倒的な負の気をまとい、私を見ていた。

 そして空気。私の呪いを突き破る、凍るような冷たさを感じる。
 恐らく室内は氷点下に近いのだろう。

 寒さに耐えながら私は目をこらした。

 血まみれの床。壁にかかっている拷問具。顔に袋をかぶせられ、椅子に縛られた女性。
 袋からのぞくきれいなブロンドは、半ば血に染まっていた。
 彼女の周りにいるのは、つぎはぎの布で顔を覆った、大きな人たち――。

「ここはあなたのいるべき場所ではありません」

 誰かが私の前に立った。私から室内の光景を隠すように。
 切れ長の目をした黒い服のお兄さんだ。
 彼はスティーブンさんに、

「寝室までお送りし『処置』を済ませておきます」
「ああ。昨日の昼からで頼む」
「かしこまりました」
「世話をかける」

 死にそうな女の人を前に、スティーブンさんの声はあまりにも平静だった。

 もう一度見たいと思ったけど、扉が閉ざされた。
 お兄さんが先に立ち、私に、

「こちらへ」

 私は素直にコクンとうなずき、お兄さんの後についてふらふらと歩いた。

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