第3章 開き直られました
「スティーブンさん、お仕事で忙しいんだから」
半分不本意とはいえ、私は囲われてる身だ。ぜいたくは言えない。
一瞬だけ、ものすごくはしゃいで馬鹿みたいだ。
さっきの写真のやりとりがあったから、安心していたのかもしれない。
甘い言葉、電話越しのキス、写真をもう一度送ってほしいと頼まれるとか。
期待した。ほんのちょっとだけ。
……マジで単なる安全確認だった。
だったら監視カメラで見てりゃいいじゃないですか。設置してあるんでしょうが。
「もしくはカメラ一個一個を確認するヒマもない状況ってコト?」
私、腕組みをする。
そういえば今の電話、外の雑踏が聞こえた気がする。
それにしても、何で今日は執拗に私の居場所を確認したがるんだろう。
…………。
私はスマホを見る。
「外。忙しい状況。たった今、私の安全を確認した」
私はスマホをテーブルに置いて立ち上がる。
つまりは、次の安全確認まで、間があるってことだ。
「公園のスペシャルクレープの出店、毎週この曜日だけだし~」
ちょっと買って帰れば、すぐだ。万が一電話が来てたら、トイレにこもってたとか言い訳すればいい。
何しろあのクレープ店。ありがちな露店に見えるけど店主は元有名料理店のデザート職人らしい。
引退後の娯楽に始めたらしいが、素材も調理もメチャクチャこだわってて、中でもチョコソースが絶品。
このあたりでは最新の穴場スポットで、人目を忍んでこっそり買いに来るレディも多いとか。
スティーブンさんにも教えて、今度一緒に行こうって約束したのだ。
私は上着を引っかけ、いそいそと家を出た。
それが、とんでもない間違いだということにも気づかず。
…………
ここは公園。私はベンチに座りボーッと待つ。
私から少し離れた場所に、クレープの屋台。今日も人だかりだ。
そこからクレープ二つを手にした子供が駆けてくる。
子供は一つを私に差し出し、
「お姉ちゃん、これでいいの? チョコソーススペシャル」
「ありがとう。またお願いね」
「またねー」
子供に小銭を握らせ、依頼完了。
くそ、常春の呪いめ。クレープ一個まともに買えやしない。
でもチョコクリームをすするように飲み、至高の喜びに悶え、あっという間に完食。あー、幸せ。
……ちょっと罪悪感。