第3章 開き直られました
車がアパートメントの前で止まった。
「どもでした」
ドアを開けて車から降りる。
「家でいい子にしているんだぞ」
スティーブンさんが運転席の窓を開けて言う。
「むろんです。ではお仕事頑張って下さい」
微笑み、背を向けようとすると、
「誰が来ても絶対に開けるんじゃないぞ」
「了解です。例えスティーブンさんであっても決して開けま――じじじ冗談です」
運転席から冷気を感じ、早々に白旗を揚げた私であった。
「何か火急の事態があればすぐに僕に電話を」
「合点承知」
「スマホは手元に置いておくように」
「了解しました」
「最低一回は安全確認の電話を入れるから、3コール以内に出てほしい」
「……はいです」
「だがGPSは位置偽装も可能だ。後で室内での自撮りの写真を送ってくれないか?」
「…………はあ」
「その際は、僕が買ったアンダーウェアを着てほしい」
アンダーウェア。つまりは下着。
「…………裸の写真でも送りましょうか?」
「いいのか? 頼む」
え。即答。
「楽しみにしているからな、ハルカ」
「………………」
ちなみにこの時点に至るまで、スティーブンさんは真顔。
キリッとしたお仕事モードだ。
反応に困り、固まっていると、
「ハルカ」
ちょいちょいと指で手招きされ、顔を近づけさせられる。
するとそっと頭に手を当てられ、身を乗り出したスティーブンさんと唇が重なった。
アパートメントの前で人通りがほとんど無いとは言え、外なのに。
「いってくる」
「い、い、いってらっしゃい!」
あわてて応えると、スティーブンさんは片目をつぶり、車を発進させた。
慌てて手を振ったが車はあっという間に角を曲がり、見えなくなった。
「はああ~」
やっぱりカッコいいなあ。あんな人の運転する隣に自分が座れたとか、嘘みたいだ。
……自撮りの件は一時的に脳内から消去するとしよう。
「よし。戻るか」
足取り軽くアパートメントの入り口を抜け、セキュリティを難なく通過し家に入る。
「今日も頑張ってお掃除するぞ!」
腕まくりして張り切っていると、スマホの通知音が鳴った。
「まだ運転中じゃないんですか? 危ないなあ」
眉をひそめつつ、新着メッセージを確認すると一文だけ。
『写真は?』
……おい。