第3章 開き直られました
窓の外では車の量が増え、人々が動き出す時間だ。
そろそろチェックアウトの時間も近い。
「お名残惜しいです」
朝食の、熱々のベーコンエッグを切り分けながら嘆いた。
スティーブンさんが連れてきてくれたのは、私の呪いが通用しないホテル。
ここを出れば、私はまた呪われた私に戻ってしまう。
風呂は水風呂、食べ物は常に冷めてる状態だ。
スティーブンさんは優しく、
「またいつでも連れてきてあげるよ。君がいい子にしていたらね」
「それはポイント制ですか? 何ポイント貯めれば連れてきていただけますか?」
「5000万?」
「サラッと出た。エグい上に根拠がダークマターな数字が」
ベーコンを噛みちぎりながらガクゼンとしていると、
「嘘だよ。行きたいときは僕に言いなさい。日程を調整しなきゃいけないから、すぐには無理だけど」
芸術的な手つきでサラダを口に運びながら、スティーブンさんが言う。
優しいなあ。
でも、いい子にしていれば、か。
…………
そして食事も終われば、スティーブンさんも表情も引き締まる。
ネクタイを締め、スーツを羽織れば、そこにはマフィアのナンバー2そのもの……ゴホンゴホンっ!!
職業不詳のよく分からんがカッコいい人がいた。
「ハルカ。君を家まで送ったら、僕はそのまま仕事に行くから」
「スティーブンさん、お小遣い」
伸ばした手はペシッと叩かれた。あう。
「今日は留守番をしていてくれ。代わりに仕事の帰りにパティスリーに寄ってくるから。
知り合いのショコラティエがおひろめ前の新作を、特別に購入させてくれるってさ」
ふーん。ショコラティエって何だろ。八百屋か?
でも留守番か。ま、いいか。外に出てもやることないし。
また銀髪のチンピラに絡まれるのはゴメンだ。
「ハルカ」
「わ!」
いきなり抱き寄せられ、そのまま背中に手を回しキスをされた。
「愛しているよ」
「わ、私も、です……」
顔を真っ赤にして、どうにか応えた。
「だから、いい子で留守番していてくれよ」
まだまだ子供扱いなんだから。
「はいはい。お土産、楽しみにしてますから。
お仕事いってらっしゃい」
私は微笑み、もう一度、キスをねだったのであった。