第3章 開き直られました
「ん……んん……」
深い眠りから覚め、空いた手で何かを探す。
ほどなくして、手が人肌に触れた。
「ハルカ。どうしたんだ?」
誰かが私の手を取り、口づけた。優しい声だった。
ゆっくり目を開けると、目元に傷のあるカッコいい人が見えた。
「おはよう。何を探していたのかな?」
私に腕枕をしていた、上半身裸の恋人が微笑んだ。
「幸せな夢を見ていて、その面影を追い求めておりまして……」
「どんな夢を見ていたのかな、お姫様? 僕に叶えてあげられる夢だと良いんだけど」
手の甲に唇を当てながら言う。
なのでわたくしは、
「札束の風呂に入っている夢でございます」
「……1ゼーロ札ならどうにかなるかなあ」
ならないんじゃないっすか?
「あと両脇に巨乳の金髪の美女をはべらせてましてね」
「いや女の君が、美女をはべらせてどうするんだよ」
「まだあります。ヘリコプターから偽札をばらまき、群がってそれを拾う愚民共を嘲笑っているという愉悦の極み――」
「止めときなさい。ここじゃ地上から撃墜されるから」
「誰でも一度は見る夢でございましょう」
「あいにくと、そんな小物で俗物な夢は一度も見たことがないな」
遠回しにディスられました。
そしてスティーブンさん、やれやれと立ち上がり、私をタオルで大事にくるむとそっと持ち上げた。
お姫様抱っこである。そしてスタスタとバスルームへ。
「何をごむたいな」
「美女を手配する気はないが、僕で良ければ君にはべってあげるよ?」
「人さらいー」
「一緒に朝のシャワーに入ろう。札束よりもっと良い物をあげるから」
「あーれー。おーかーさーれーるー」
「女の子がそんなことを大声で言うんじゃ無い。優しくしてあげるから」
「すでにシャワーだけで終わらせない気満々っすか?」
「君の寝顔が可愛すぎるのが悪い」
ちゅっと額にキスをされました。
「責任転嫁だー」
ジタバタ暴れるが、敵がこたえた様子は無かった。
なおバスルームでスティーブンさんが『優しかった』かどうかは、ご想像にお任せします……。