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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第1章 連れてこられました



「あいにくと、五日間の徹夜と三度の戦闘がなければ、そんな軽微な呪いに引っかかりはしなかったよ。
 そもそも攻撃範囲内に君がいることに気づかない、なんて大ポカもしなかっただろうし」

 地面で苦悶の声を上げる私を見下ろし、スティーブンさんは辛辣な笑みを浮かべた。
 ……いや『戦闘』って何すか、マジで!

「君の呪いはきれいに解くのが難しいだけで、無力化するだけなら極めて平易だ。
 ただ呪いに紐付けされた君の身体に、どんな影響が出るか分からないがね」

「むしろあなたが私の天敵!?」

「理解出来たら、礼儀正しい口の利き方を覚えるかい?」

「了解です。これから敬いますから! こぶしでこめかみをグリグリするの止めて!!」
 大人げない大人に暴力を受け、ジタバタする私だった。

「はは。面白いな、君」

 スティーブンさん、私の両脇を持って持ち上げながら言う。
 腕が全く震えてない。細身なのに、意外と腕力のある御方だな。
「はい?」
 スティーブンさんが笑っていた。
「こんなに楽しい気分になったのは、久しぶりだよ」
「薄幸の美少女をいたぶって楽しい気分になられたと?」
「さて、さっき僕を『敬う』と言ったのは、どの口かな?」
「あだだだだだっ! 脇で私の頭を締め上げるの止めて、止めてっ!!」
「あはは、楽しい楽しい」
「きゃー。お助けー」

 スティーブンさんは声を上げて笑う。
 笑うと、とても子供っぽい顔になるのだなと思った。
 そして彼は私を解放し、ちょっと優しい顔になった。

「気が咎めるなら、掃除や雑用をしてくれればいい。
 それでも居心地が悪いのなら、勝手に出て行けばいい。
 そこまでして出て行こうとするのなら、僕にも止める権利はないからね」

「……分かりました。お世話になります。スティーブンさん。本当に感謝いたします」

 私は下ろしてもらい、スティーブンさんに深々と頭を下げた。

「呪いが解けるか記憶が戻るかまで、どうかよろしくお願い致します」
「僕もツテを当たるから、そんなにはかからないよ。
 安心していい。長くて一週間くらいだろうね」

 スティーブンさんは腕組みし、苦笑した。

「よろしく。ハルカ」

 微笑み、私の名を呼んだのであった。

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