第3章 開き直られました
「スティックでボールを弾いて、穴に落とすだけのシンプルな競技だ。覚えれば楽しいよ。
ほら、腕とキューの角度は90度くらいにして――」
文字通り、手取り足取りなノリでフォームの指導をしてくる。
「――で、今教えた要領で球(たま)を弾いてみて」
「スティーブンさん、でも今打とうとしてる球、2番ボールじゃないですよ?」
「いいから。僕のやった通りに打ってみて」
「はい」
し、集中しろ、集中~と思いつつ、キューでボールを……弾く!
「あ!」
弾いた球が転がって、その先にあった2番ボールにぶつかり……2番ボールが台の穴に落ちた!
「や、やったあ!!」
「すごいじゃないか、ハルカ!」
今度はスティーブンさんが、手を叩いて喜んでくれた。
「面白いだろう? 上手く打てば初心者にも逆転のチャンスはあるし、女の人も上達出来る。奥の深いスポーツなんだ」
しゃべりながら、優雅な動きで、ボールを次々に台に入れていく。
私はゲームよりも、スティーブンさんの芸術的な動きに見とれてしまった。
その後、何ゲームか楽しんだ。
十分なハンデをつけてもらっても、ぼろ負けだったのは言うまでもない……。
…………
ビリヤード場の次に連れて行かれたのはホテル。
夜景がきれいだったが、そんなものを見る余裕など無かった。
なぜなら。
「いい痛い! 身体が……ギシギシ言いますです!!」
ベッドの上で私は悶え苦しんでいた。
恐るべしビリヤード。スポーツ競技なだけあり、結構身体を使う。
「少し運動不足じゃないか? ハルカ。もう少し身体を動かさないと」
荷物をテーブルに置きながら、スティーブンさんは涼しいお顔だった。
けど私の手を取り、甲に口づける。
「バスルームで、汗を流した方がいい」
私は身体を起こし、顔を赤くした。
レストランが呪術対応だった。ということは、このホテルも……?
「お風呂も温かいですか?」
「もちろん!」
唇を重ねられ、抱きしめられ、ぼーっとなって身を委ねる。
けど夢見心地な一方で、ザップさんの言葉がなぜか脳裏に浮かんだ。
『気をつけろよ。ああ見えてスターフェイズさんも理不尽だからな。
落ちないと見れば、全力で落としにくるぜ』
私のことは、ゲームじゃ無いと嬉しい。
……と思う。