第3章 開き直られました
スティーブンさんが、その桁違いの強さにより私の呪いをアッサリ弾くのと同様、呪いや魔術をモノともしない『場』というのも存在する。
ここなら、私がどんな呪いにかかっていようが、私は皆と同じモノを食べられるわけだ。
なら早く行けよという話だけど、ヘルサレムズ・ロットは天変地異や地上げや区画クジで、地形地名がしょっちゅう変わる。
完璧に呪術に対応した一流レストランを探すのは、それなりに大変だったらしい。
「さ、もっと食べて。ああ、デザートはジェラートとティラミスだから、その分は空けておいたほうがいい。ここのシェフの作るティラミスは『外』でも絶賛されたほどの逸品だそうだよ」
「空けます……死んでも空けます」
ボロ泣きしながらグラスのジュースをあおる。
頭がキーンとするほど冷たい。氷が舌に溶ける。
生きてて良かった。
スティーブンさんはそんな私を見ながら、ずっと笑顔だった。
…………
「うおぉっ!!」
キュースティックがボールを盛大に弾き、一番ボールがテーブルの端に当たり、ポーンと飛んでいく。
「こらこら。勢いをつけすぎだぞ、ハルカ」
ボールを取りに行きながら、スティーブンさんが笑っていた。
ジャケットもネクタイも取った、ラフな青シャツ姿だ。
「本来ならファールだけど、君は初めてなんだし二人きりだ。細かいルールは無しで行こう」
「はい……」
スティーブンさんがボールを台に戻すのを見ながら、情けなく身を縮こめている。
レストランの次に来たのは、何やらセレブリティな雰囲気漂うビリヤード場だった。
他のお客さんがいなくて良かった。
「ビリヤードなんて初めてだし……」
「そうとも。誰だって初めてだよ」
スティーブンさんは身体をしなやかに曲げ、キューに手を添え狙いを定め――球を弾く!
弾かれた1番ボールが、台に空いた穴に落ちた!
「……すごい! すごいです!!」
拍手した。スティーブンさんは笑って私に手を上げながら、
「じゃ、ハルカ。2番ボールをポケットに落としてみようか」
「ポケット?」
「台に空いている穴だよ。ほら、キューを持って。教えてあげる」
ううう。自分でプレーするより、スティーブンさんの華麗なスティックさばきを見てたいんだけどなあ。