第3章 開き直られました
「買い物? 楽しかった?」
車を発進させながら、スティーブンさんは私の買い物袋を見る。
「ん……ま、まあ」
ついつい、セクシーな女性のシルエット入りロゴを隠した。
「そういうものを着たいのなら、僕に言ってくれればいいのに。こういうのは粗悪なコピー商品が多いから、ちゃんとした店で買うのが一番いい」
……お見通しだった。
あとセクシーランジェリーのちゃんとしたお店って、どんな店ですか。ドキドキ。
「……いや、あ、あははは……」
だが言えない。まさか別の男と夜の下着を選んでましたなんて。絶対言えない!!
「ま、ザップのセンスというのが腹立たしいが、今夜だけは譲ろう。だが明日は僕の選んだものを着てくれよ?」
またバレてるし! しかも今夜か! 明日も確定か!! もう用意してあるのか!!
何だかんだで楽しみにしてるじゃないか、スティーブンさんっ!!
戦慄する私であった。
「んん!……で、どこに行かれるんです? ご自宅は方向が違うのでは?」
咳払いし、話を軌道修正した。
「ああ。良いところに行く。楽しみにしていてくれ」
と片目をつぶられた。ほほう、夜景のきれいなホテルですかな。
ま、どんだけ頑張っても私は一人、水風呂ですがなー。
…………
…………
個室のお座敷で、私は泣いていた。
「う……うう……」
「ハルカ。ほら、涙が料理にこぼれる」
スティーブンさんが手を伸ばし、涙を拭いてくれるけど、また泣いてしまう。
「泣くほど喜んでもらえるとは思わなかった。苦労して探したかいがあったよ」
スティーブンさんは嬉しそう。ものすごく。ものすごく。
「だって……だって……美味しいし……温かい……!!」
ジュウジュウと湯気の立つステーキを口に運ぶ。どれだけ咀嚼(そしゃく)しても温かい。すっかり猫舌になってた舌がヤケドしそうだ。
美味しい、美味しい、美味しい!!
「そっか。温かい物を食べられないの、そこまで辛かったんだね。
ごめん。それならもっと早く探してあげれば良かった」
痛ましげにスティーブンさんが私の頭を撫でる。
どういうことかと言うと、私たちは高級レストランに来ている。
単なる高級レストランではない。
『魔術、妖術、呪術対応』レストラン。
私の呪いが通じないレストランだ。