第3章 開き直られました
「ん……ん……」
窓から光が差している。
私はベッドの中で寝返りを打った。
お腹、すいた……。
ぐっすり寝るところが、思わぬ運動をさせられたからか。
でも食欲よりもぬくもりがほしい。
「スティーブンさ……」
身体をもぞもぞ動かし、目を開けず恋人を探した。
「?」
気配がない。やみくもに広いベッドの中をごそごそ這い回り、ついに観念して目を開けた。
「あら」
誰もいない。大きい真っ白なベッドには私一人。
「スティーブンさん?」
取り残された気がして、心細くなった。
「て、お仕事に決まってますね」
落ち着きを取り戻し、部屋をキョロキョロする。
するとサイドテーブルのメモに、メッセージが残されていた。
『My dear,
仕事に行ってくる。リビングに朝食を用意した。
お金は節約して使うように。甘い話に乗らない、知らない人についていかない。
何かあればすぐに緊急ボタンを押すこと。
With love,
Steven』
……始めと終わり以外は、子供にあてた注意書きである。
「あ、まずシャワーを浴びないと」
お腹がすいているのも道理。時計を見たら、昼前だった。
伸びをしてベッドから出て、椅子にかけられたシャツを取り、裸の身体に羽織った。
「?」
寝るときは、一応シャツ一枚を羽織っていたはずでは?
ちゃんとボタンもつけてたのに。
いったいいつ脱げた。全裸で寝てたのか私。
寝相が悪くて自然にするっと脱げるものなのか。
ならば、なぜ椅子にかけてある。
「…………」
この件は後でスティーブンさんに追及させていただこう。
シャツの前を押さえながら、私はシャワールームに急いだ。
…………
リビングのテーブルには朝食と、今日のお小遣いが置いてあった。
まずは朝食のパストラミサンドをかじりながら、今後のことを考える。
仕事探しとか、一人暮らしはスティーブンさんに禁止されている。
ならば。
『呪いを解くこと』
うむ。当面はこれを目標にしよう。
周囲全てを春の気温にしてしまう、忌まわしきこの呪い。
風呂は水風呂。アイスは一瞬で全滅してしまう。さらに年間通して食中毒の危険あり。
それを除いても、実生活の困難が多すぎるのだ。
……スティーブンさんと一緒に珈琲も飲みたいし。