第3章 開き直られました
ちなみに自力で呪いを解くのは即却下された。
『この街で素人が情報収集なんて、危険にもほどがある。
情報を教えてあげるとか言って、悪い男に路地裏に引きずりこまれたらどうする!
僕の方で調べておくから!』
と言われたんだけど、何か信用出来ないなー。
つか、私、そこまで甘い罠に引っかかるガキじゃありませんがな……たぶん。
そしてベッドに入ってから、おしゃべりしたり、次の休日の予定を話し合ったりした。
「…………」
でもスティーブンさん、三十分後には寝てしまった。
私はしばらく恋人の髪をいじったり、寝顔を眺めたり、こっそりキスしたり。
でもそろそろ寝なければと、ベッドサイドの明かりを消した。
私はスティーブンさんに寄り添い、彼の寝息を聞きながら目を閉じた。
「……うーん」
寝返りを打つ。眠れないなあ。
私用のキッチンに行って、水でも飲もうか。
腕枕から起き上がって、スリッパを履く。
ドアを開けると、廊下のランプがセンサーで自動点灯した。
とはいえ、足下が分かる程度の明かりなのでちょっと怖い。
私は一人で廊下を歩いた。
…………
キッチンからの帰り道、明かりを頼りに、寝室に戻った。
「あれ?」
ドアを開けようとしても開かない。
「あ、そうだ。さっきのとこ左に曲がるんだった」
くそ、無駄に広いセレブ住居め。慌てて戻りながら、ふと立ち止まった。
「あ、あの、今の、ホントに間違えただけですからね?」
廊下の向こうの暗闇に言うが、返事はない。
馬鹿なことをしたと思いつつ、今度こそ部屋に戻る。
スティーブンさんは出てきたときと変わらない寝相でぐっすり寝ていた。
起きた気配はない。
私は布団をかぶり、スティーブンさんに寄り添いながら目を閉じた。
見えないものは見ないようにしよう。
例えば、いくつかの部屋の鍵は固く閉ざされていること。
未だにスティーブンさんの寝室を見たことがないこと。
掃除の最中に古い血痕を見たことがあること。
家具に隠すように、監視カメラがあちこちに仕掛けられていること。
時々、誰かの気配を、家の中に感じること。
……たまに、食事に睡眠薬が盛られていること。
責める気はない。
隠し事の多い人なのだ。スティーブンさんは。
そう思いながら目を閉じた。