第3章 開き直られました
…………
窓の外で異界の鳥が鳴いている。もう朝だ。起きないと。
「ん……」
というか、スティーブンさん起こさないと。
「ハルカ。ハルカー?」
頬をぴとぴと叩かれる。
「大丈夫です……起こします……あなたを、起こして、みせる……」
「そこまで使命感を持たなくていいよ。自分で起きたし」
耳をふにふにされる。
「……ん?」
目を開ける。
「うおわっ!!」
ビクッとして起き上がった。
ベッドのすぐ隣に、部屋着姿の伊達男が微笑んでいた。
「スティーブンさん!」
「そうだよ。よく分かったね」
「分かるわっ!……て、起きられたんですか?」
こっちもいい加減、目が覚めた。大きく伸びをしながら、驚いた。
「ホントに呪いが効かないんですね」
「鍛え方の問題さ。おいで。ちょっと早いけど、朝ご飯にしよう」
そうだ。スティーブンさん、お仕事だっけか。
パジャマにスリッパをつっかけ、慌てて後についていこうとする。
「うわ!」
ボフッとスティーブンさんの背中にぶつかった。
「いきなり止まらないでくださ――」
抗議する前に抱きしめられ、キスをされた。
「ハルカ。おはよう」
「……おはよう、ございます」
顔を真っ赤にしながら、どうにか返事をした。
…………
朝食のベーコンエッグを口に運んでいると、スティーブンさんが先に立ち上がった。
「それじゃ、僕はもう行くよ。悪いけど、皿洗いよろしく」
「え、もうですか?」
早く出るとは聞いてたけど。相変わらず不規則勤務で忙しい人だ。
スティーブンさんは珈琲を飲み、私の頬に口づけをした。
「遅くなるかもしれないけど、頼むから良い子にしててくれよ。
それと悪いアルバイトは絶対にしない」
「はーい」
スティーブンさんはネクタイを締め、優雅にジャケットを羽織る。
その仕草にドキッとした。やっぱりカッコいいなあ。
そしてスティーブンさんはテーブルに何枚か紙幣を置く。
「これ、今日のお小遣い。好きに使っていいよ」
「…………いや、いりませんよ」
私がバイトをしない代わりにお金を払うって話。さすがに冗談かと思ったのに。
「名目は何でもいいよ。使わないなら返してくれても――」
「いただきます」
キッパリと返事をさせていただいた。