第3章 開き直られました
「こら」
「痛い」
額をグラスの角でつつかれました。
「あいにくだが、ブランデーは常温の方が美味いんだ。映画なんかで、よく部屋に置かれている酒だろう?」
「ほほう。勉強になりました。では一口」
『あーん』と口を開けるが、
「こらこら。ヘルサレムズ・ロットと言えど、一応、法は適用されている。お酒はダメだ」
マジかー。
「ならつまみだけでも」
「持って来ていないな、代わりに――ほら」
「ん?――んん!?」
口に指を突っ込まれた。子供か! つまみくらい寄こせ!
「ん~……」
こらこら、口の中で指を動かすな。舌を弄るな。
何か腹が立ったから、長い人差し指を舐める。
「噛むんじゃないぞ。歯を立てずに優しく、ゆっくりな」
スティーブンさんに笑いながら言われた。
なので、こちらもムキになってくる。
「ハルカ?」
「…………」
くすぐったがらせてやれと、舌でゆっくり舐め上げる。
スティーブンさんは、最初は楽しそうにニヤニヤとみていた。
なので私も意固地になる。音を立てて指を吸う。軽く歯を立て、舌でなぞり上げ、口いっぱいにくわえこんだ。
「…………っ!」
突然スティーブンさん、何やら声にならない声を上げ、指を引き抜いた。
「ハルカ……まさか、店でこういうサービスをやらさ――」
どうしたのだろう。顔が若干、赤い。アルコールか?
「やっておりません! てか、指舐めってどういうサービスですか!
……スティーブンさん?」
ゴソゴソと、スティーブンさんのお背中から出た。
「いや、その……」
スティーブンさん、手で赤くなった顔を隠しながらチラッと私を見る。意味ありげに。
…………。
「いや、ないないない。今日寝たのは夜明け前。明日はお仕事。健全に寝ましょう。私にお任せあれ」
さーて、お仕事だ。スティーブンさんを寝かせるぞー。
「だが、君がいれば短時間の睡眠でも、熟睡が出来る」
「そういう便利能力……いや呪いじゃないんですって!」
ずざっと飛びすさろうとしたが、
「わっ!」
「明日から、ちょっとまた忙しくなりそうなんだ」
また手首をつかまれ、スティーブンさんのふところに閉じ込められた。
「仲直り記念に……いいかな?」
そう言いつつも、拒否を許さないご様子で、敵は私を抱きしめキスをしたのであった。