第3章 開き直られました
「ええと……あの……」
「ミス・ハルカ」
「は、はい!」
「貴女が無事であったことに安堵している」
……クラウスさんは別に気まずいとも何とも思ってないっぽかった。
でも『無事』って何の話だっけ。
あ、そうだ。病院で呪いが解けない(100%不可能というわけではなく、解くのが超々困難になってる、というのが正確な状況らしい)と宣言されたとき。
私は一時、行方不明になったんだった。
スティーブンさんは、部下にドン引きされるレベルで動揺し、私を探しまくったらしい。
「そ、その節はご迷惑を……人身売買組織の捜索までさせてしまい」
「お気遣いいただくに及ばない。結果として、大勢の子女の救出に成功した」
むしろ誇らしげである。まっすぐなお人だなあ。
いや待てよ? そもそも人身売買組織をぶっつぶせる会社って、どんな会社なんだ?
やはりスティーブンさんたちって、怖い商売の人なんじゃ……。
「で、それはそれとして、眠くなりました?」
「いや一向に」
あとクラウスさんが椅子に縛られている意味があるんだろうか。
とりあえずクラウスさんが寝てくれないと話が進まない。
私はソファから離れ、クラウスさんに一歩近づく。
……スポットライトもちゃんと移動してるのが怖いんですが。
「クラウスさん。スティーブンさん、また疲れてるんですか?」
たまに見る謎の弾けっぷり(プラス優しさ)。
疲労とストレスが極点に達した印だと、何となく学習してきた。
その原因は、やはり仕事なんだろうか?
クラウスさんは縛られたまま、首をかしげつつ、
「以前ほど彼に仕事を与えないよう配慮はしているが……だがまた案件が立て込みつつあり、彼に多大な負担を……」
「待って待って待って」
落ち込ませてどうする。
「そこまでは忙しくないんですよね!? ならスティーブンさんのストレスの原因って何なんですかね?」
「見当もつかない。今日も打ち合わせの際に、貴女がいかに愛らしいかということを、長時間に渡り話し続け、微笑ましく思っていたところだ」
「は!?」
「……いや、だが同時に貴女の素行が心配であるという話を聞き、その対策方法を話し合った。
ああ、そういえば、それで話し合うべき事を話し合わないまま終わってしまったのだ。もしかしたら、そのことが今の結果に――」