• テキストサイズ

【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第3章 開き直られました



 スティーブンさんは私に語りかける。

「元々、一人で行こうとしていた君を、無理やり引き戻して手に入れたのは僕だ。
 温度差があることは十分すぎるほど痛感しているよ」
「…………」

 温度差というか、愛情表現の違いというか。
 私は私で、好きなつもりなんだけど。

「だが君の態度が、時に僕を傷つける刃になるということも分かっていてほしい。
 君の不安定さには、僕の部下たちも心配していた。もちろんクラウスもね」
 いやいやいや。不良じゃないんだし。
 あと、あなたもお顔に似合わず不安定に思えるのは、私だけでしょうか。

「だから、あのお仕事は一緒に寝てただけですって。お触りとかそういうの、何もなかったですから」
「うるさい」
 はーい。

「自分の女が、他の男と一緒にベッドに入ってるところを想像しただけで、正直言ってはらわたが煮えくりかえるようだ」

 自分の女……。

「スティーブンさん。大切なものは作らない主義って忘れてませんか?
 恋人離れしとかないと、いざというときに、私を捨てられなくて困るんじゃないですか?」

 少しだけ沈黙があった。

「わっ!」
 くるんと抱き直され、スティーブンさんのお腹の上に腹ばいになる格好になる。

「君の冷静さに、たまに泣きそうになるな」
 あ、ヤバい。もしかしてぐっさり刺しちゃった?

「す、すみません。言葉がすぎ――」

「時々、君がフッといなくなりそうで心配だよ」

 スティーブンさんの目は、どこか痛ましげだった。
 私の頬に手を当て、そっと耳を撫でる。

「桜の花びらみたいに。風に吹かれて、いつの間にかどこかに消えてしまいそうだ」

 下から抱きしめられる。そのままキスをする。

「君を軽く扱って、深い傷を負わせた。本当にすまないと思っているよ」

 えーと出会った当初、何度か殺されかけ、見捨てられかけたこと?

「気にしてませんよ。仕方がないし」
「……君はいい子すぎるんだ、ハルカ」

 目元の大きな傷が、間近に見える。

「君が外に出ることを制限することは出来ない。だけど自分から危険に飛び込む真似は、これきりにしてくれ。頼む……」

「はい。ごめんなさい、スティーブンさん」
「ありがとう」

 やっとスティーブンさんも笑ってくれた。
 そして言った。

「シャワーを浴びておいで。ハルカ」
 
/ 333ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp