第3章 開き直られました
スティーブンさんは私に語りかける。
「元々、一人で行こうとしていた君を、無理やり引き戻して手に入れたのは僕だ。
温度差があることは十分すぎるほど痛感しているよ」
「…………」
温度差というか、愛情表現の違いというか。
私は私で、好きなつもりなんだけど。
「だが君の態度が、時に僕を傷つける刃になるということも分かっていてほしい。
君の不安定さには、僕の部下たちも心配していた。もちろんクラウスもね」
いやいやいや。不良じゃないんだし。
あと、あなたもお顔に似合わず不安定に思えるのは、私だけでしょうか。
「だから、あのお仕事は一緒に寝てただけですって。お触りとかそういうの、何もなかったですから」
「うるさい」
はーい。
「自分の女が、他の男と一緒にベッドに入ってるところを想像しただけで、正直言ってはらわたが煮えくりかえるようだ」
自分の女……。
「スティーブンさん。大切なものは作らない主義って忘れてませんか?
恋人離れしとかないと、いざというときに、私を捨てられなくて困るんじゃないですか?」
少しだけ沈黙があった。
「わっ!」
くるんと抱き直され、スティーブンさんのお腹の上に腹ばいになる格好になる。
「君の冷静さに、たまに泣きそうになるな」
あ、ヤバい。もしかしてぐっさり刺しちゃった?
「す、すみません。言葉がすぎ――」
「時々、君がフッといなくなりそうで心配だよ」
スティーブンさんの目は、どこか痛ましげだった。
私の頬に手を当て、そっと耳を撫でる。
「桜の花びらみたいに。風に吹かれて、いつの間にかどこかに消えてしまいそうだ」
下から抱きしめられる。そのままキスをする。
「君を軽く扱って、深い傷を負わせた。本当にすまないと思っているよ」
えーと出会った当初、何度か殺されかけ、見捨てられかけたこと?
「気にしてませんよ。仕方がないし」
「……君はいい子すぎるんだ、ハルカ」
目元の大きな傷が、間近に見える。
「君が外に出ることを制限することは出来ない。だけど自分から危険に飛び込む真似は、これきりにしてくれ。頼む……」
「はい。ごめんなさい、スティーブンさん」
「ありがとう」
やっとスティーブンさんも笑ってくれた。
そして言った。
「シャワーを浴びておいで。ハルカ」