第1章 連れてこられました
きれいな身体と服って、ここまで気持ちを明るくしてくれるものなのか。
清潔のありがたみを実感しつつ、私はリビングに向かった。
「どうもありがとうございました」
「ああ、出たかい?」
スティーブンさんはエプロン姿で、カップにミルクを注いでいるところだった。
よく見ると昨日の服から、パリッとした私服に着替えていた。
「ちゃんと洗ったかい? 今、カフェオレが――……」
彼が笑顔で私を振り返り――硬直する。
「…………っ」
「え?」
あまりに目を見開き、こっちを凝視してるので、よほど変な格好をしてきてしまったのかとキョドる。
いやでも服はスティーブンさんが買って下さったものだし――通販で購入してヘルサレムズ・ロットの『音速便』で届けてもらったとか何とか。
鏡見ながら、ドライヤー使ったから、髪もハネてないはず。
「いや……その、きれいになったね」
スティーブンさんは私から目をそらし、そう言った。
久しぶりに会った親戚の子に、言うみたいなセリフだなあ。私は深々と頭を下げ、
「お風呂とか服とか、重ね重ねありがとうございました。洋服の代金は――」
「いいからいいから。ソファに座って水分補給をしてくれ。それから今後のことを話し合おう」
はーい。
…………
ソファに座り、砂糖たっぷりの甘いカフェオレを飲んだ。
「ごちそうさまでした」
「落ち着いたかい? それじゃ」
「寝ます」
「寝るな」
「マジすか」
「マジだ」
「我に睡眠を」
「僕だって寝たいよ。五徹が一晩寝ただけで全快するか」
「歳ですか?」
「君も試してみるかい?」
「寝落ちしますよ」
「僕が起こしてあげる」
「私が寝るたびに水をぶっかけるとか、そういう感じですか?」
「ドラム缶の中に立たせて、アゴまで水に浸けておく」
リアル拷問やんけ。
てかスティーブンさん、だんだん顔がマジになってる。
本気で繊細なお年頃らしい。あまり年齢ネタでイジらないようにしよう。
「さて、話が落ち着いたところで」
脅しで私の反論をねじふせたところで。
スティーブンさんは腕組みをし、マジメな顔になる。
「まず問題を整理しよう。君の目的は一つ。言うまでも無く『無事に家に帰ること』。
だがそれに対する障害が二つ。一つは『記憶障害』。もう一つは『常春の呪い』だ」