第1章 連れてこられました
「あ! 寒い! 寒い寒い寒い寒い! あーっ! だがシャワーが! 汚れを! 洗い流して!! いや! 冷たい! しかし汚れが!! あー、寒い!!」
スティーブンさんちのデカいバスルームで、私は一人大騒ぎであった。
公園の噴水を除けば、半月ぶりのまともな入浴!
だが水温15度!! 超寒い!!
周囲が春の気温になるといっても、体温調節機能は死んでないらしい。
つまり、水風呂は普通に寒いのだ。
「やれやれ。こんなに賑やかに風呂に入る客は初めて見たな」
バスルームの扉が開いて、スティーブンさんがヒョコッと顔をのぞかせた。
私は驚愕し、
「あ! スティーブンさん! さては私の裸体に欲情されたのですか!?」
普通は『キャー! スティーブンさんのエッチー!』となる場面だろうが、スティーブンさんがあまりにも自然にドアを開けたので、緊迫感ゼロだった。
ちょうどタオルで身体が隠れてたこともあり、ついノリな感じで答えてしまった。
あちらもニヤッと笑い、
「何だ? 欲情されたいのかい? あいにくと子供に興味は無くてね。
ほら、トリートメント。忘れててゴメン」
パシッと小瓶を投げられた。だから子供じゃないっつうに。
えーと、これってコンディショナーの前? 後?
忘れてても何も、記憶喪失前の私、使ってたのかな。
というかこれ、めっちゃ高そうなんですが!!
もらって帰っちゃダメ? ダメかな、やっぱり。
「何ならシャンプーハットもつけようか?」
ニヤニヤニヤ。
「去れ、変質者」
「おおせのままに。外に着替えを置いといたからね」
「あ、どもです」
バタン。
風呂場のドアが閉まる。
「…………コンディショナーの前か後か、聞き忘れた」
トリートメントの使い方に思い悩む私であった。
…………
そして時間をかけて全身を洗い、やっと外に出た。
「はあ~。生き返る」
脱衣ルームには、真新しい下着と服が用意されていた。
袖を通し、ドライヤーで髪をとかし――ドライヤーの熱風も春風になってしまうので、時間がかかったが――軽くお手入れをする。
「おお!」
鏡の中には、別人のようになった自分がいた。