第3章 開き直られました
誰かが私の肩を揺さぶってる。
「ハルカ。朝食が出来たよ。ハルカ」
けど、私はうなって寝返りを打つ。
「ハルカ。起きなさい、ハルカ」
「あと……五時間……」
「ハルカ。起きなさい。起きろって」
「んん~」
手をバッと振り払い、お布団にくるまる。ぬくぬく~。ああ、春の体質で良かった~。
したら、耳元で世にも低い声が、
「……犯すぞ」
「っ!!」
ガバッと真っ青になって起き上がった。
…………
…………
冷水シャワーと冷風ドライヤーという苦行を終えてリビングに行くと、すでにテーブルには早い朝食が出来ていた。
スティーブンさんはゆったりした部屋着だ。エプロンを外しながら、
「いつもサンドイッチじゃ飽きるだろ? 今日は普通に作ってみた。簡単だけどね」
……パエリアを『簡単』という人種には初めてお目にかかった。
「ん? 前の晩に仕込みを済ませれば、あとは炒めるだけだろ? そこまで面倒くさいメニューじゃないさ」
『仕込み』なんて、そんな簡単にっ! 簡単にっ!!
私はテーブルにつきながら、
「スティーブンさん、先に食べてくれて良かったのに」
そしたら、温かい状態で食べられたのに。
「つれないことを言わないでくれよ。せっかく一夜を過ごした翌朝なのに」
微笑み、額をつつかれる。
「!!」
冷めたパエリアを口にしかけてたのに、カァっと熱くなる。
「あ。照れてる? 可愛いな」
うるさい、うるさい、うるさいっ!!
ヤケになってパエリアをかきこむ。そして私の目がちょっと丸くなる。
「……美味しいっ!」
真に美味い物は、冷めても美味いのだと知る。
「そう? 良かった。頑張って作ったかいがあったよ」
頬杖ついて、スティーブンさんはニコニコしている。
「…………」
その顔を見て、夕べのことを思い出し、恥ずかしくなる。
くそ。こっちはまともに顔を見られないのに、向こうは余裕の笑顔だ。
スティーブンさんもパエリアを食べながら、
「ハルカ。僕はこれからクラウスと打ち合わせに行ってくるから。
今日は家の中の掃除と、あと自分の荷物の荷ほどきをしておいてくれ。
そこまで遅くはならないと思うから」
うーん。