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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第1章 連れてこられました



「いいから食べてくれ。これは僕と君の朝食だ」
「…………」

 私は目を開けて、スティーブンさんをじっと見る。

「さっきは悪かったよ。元はといえば僕が連れてきたのに、君を不快な気分にさせた。
 だから食べてくれ。ソファが汚れるとか、無駄な気遣いはいらないから」
「そうですか……?」
「そうだよ。さ、どうぞ」
 
 ……その後はよく覚えてない。とにかく胃に詰め込めるだけ、詰め込んだとだけ。

 …………

 そして、ほとんど食べ終えた。

「ほら、喉につまるからミルクを飲んで」
 勧められるまま、コップのミルクを一気飲みする。
 けど、私はちょっと顔をしかめた。
「……すごく常温ですね」
 ちなみに料理も全て冷めていた。

「それはそうだよ。君は周囲の温度が一定になる呪いにかかってるからね」
 スティーブンさんも微妙な顔で、作りたてなのに冷めてる料理を口に運んだ。

「料理だけ例外とかなら良かったのに」
 そう言うと、苦笑するスティーブンさん。
「そんな都合が良ければ、呪いとは言わないさ」
 確かに。

「でもそれなら、スティーブンさんは私から離れて食べた方が良かったのでは?」
「え? 何故だい?」
「いや何故って……」

 離れて食べたら熱々のベーコンエッグが食べられたし、その……私、ちょっと臭うし。

「僕、もしかして君に嫌われたかな?」
「いえ、別にそういうことでは……何て言うか、その……」

 スティーブンさんは食器をまとめ、立ち上がる。

「じゃ、そろそろシャワーに行っておいで」
「いえその……そこまでは……」
「呪いがあるから水風呂同然だろうけど、そのへんは我慢してほしい。洗髪剤やタオルは客用の新品を出しておいたから」
「いえ、その……」
 
 困惑顔から、一転しての親切に、そろそろ居心地が悪くなる。
 するとスティーブンさんは私を見下ろし、

「自分だけベッドで寝て、女の子を床に寝かせるなんて、分かってたら絶対しなかった」

「?」

「僕が連れてきたんだから、君は今、この家の客だ。
 客を床で寝かせるわけがないし、客が冷めた料理を食べてるのに、自分だけ温かい料理を食べることは出来ない」

「……はあ」

「分かったら、シャワーを浴びてきなさい。子供が大人に遠慮するんじゃない」

 いや、私、『子供』って歳じゃないんですが……。

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