第3章 開き直られました
でもでもでも。いざ、こういう状況になると『逃げたい』気持ちが圧倒的に強くなる。
「あ、あの、明日は朝早くからお仕事だし、私の呪いのせいで万が一起きられなかったら……」
「君の呪いの影響は受けないつもりだ。でも万が一、僕が起きなかったら、君が離れるだけでいい」
私を抱きしめ、ちゅっと髪や頬にキスをしながら言う。
……あ、まあそうですよねー。
「大丈夫だよ。今日は何もしなくていいから。だからそう怖がらないで」
すぐ近くの瞳が、笑う。
「今日は、ということは次もあるので?」
「ん……んん、まあ、そうかな?」
目をそらしつつ、コホンと咳払い。
なるほど、なら少なくとも『次』までに殺されることはないか。
だけどそれでも緊張が解けず、ガチガチに固まっていると、
「それとも、今日は止めておくかい?」
うわああ!!
「マジで?」
「うん」
スティーブンさん、あっさり私から離れ、横になる。
腕で私を抱き寄せて、
「言っただろう? 無理強いはしたくないって。そこまでガツガツした歳じゃないしね」
「ホントのホントに?」
胸にもたれながら言った。
「うんうん。残念なのは本音だけど、君にちょっと触れて、抱きしめ合って寝るだけでもいいし」
「むう……」
私の中で、あらゆる感情が怒濤(どとう)のごとく駆け巡り――覚悟を決めた。
「……い、いえ、その……大丈夫です」
自分の両の指を絡ませながら、ものすごく小さな声で言った。
「ん? 何が大丈夫? 床で寝るのかい?」
誰がやるか、そんな被虐プレイ!!
「…………し、したい、です……」
顔を真っ赤にし、ガクガクしながら言った。
スティーブンさんはいつもと変わらぬお顔でじっと私を見、
「いいの?」
「…………いいっす」
「ここから先はキャンセル不可能だけど? 僕なら本当に日を改めて構わないし――」
最終的にヤる、というのは変更不可らしい。
「いいです!! 私も!……スティーブンさんのこと、好きだし……! どうぞお好きに!!」
ヤケになってバスローブの紐をほどき、自分には似合わないような露出度の高いエッチな下着を見せる。
「…………」
次の瞬間にドンッと、ベッドの上に押し倒された。
キスをされながらちょっとだけ『これ、スティーブンさんの戦略だったのかなあ』と思ったのだった。