第3章 開き直られました
「っ!!」
足をすくわれ、後ろに倒れた。けど背を抱きとめられ、そっと床に横たえられる。
やっとまともに呼吸が出来たけれど、心臓の鼓動はうるさいほどに早い。
スティーブンさんが無表情に私を見下ろしていた。
下半身を足で押さえつけられ、逃げられない。
指でネクタイを緩めるのが見える。でもまだ外してはいない。
冷たい汗が流れた。
「や……やだ……」
もがくけど、どいてくれない。
「君のために、さんざん骨を折ったんだ。ご褒美くらい欲しいな」
自分もかがみ、頬に手を当てキスをしながら、悪い大人が笑う。
「ご自分で、やったことでしょう……頼んで、ないです」
パニックになりながらも、手でスティーブンさんを押し返そうとする。
そうしたら片手で両の手首をつかまれ、頭上に押さえつけられた。
足でやんわりと、暴れる私の腰を押さえながら、別の手が――私の胸を覆う。
頭が真っ白になり、動けなくなった。
「ハルカ」
耳元で名前を呼ばれ、ドキッとする。
「無理やりは嫌なんだ。君の許可がほしい。君を……抱きたい」
この期(ご)に及んで、えらい茶番ですなあ。
私をどうしようが、自由だというのに。
「君がいなかった時、君と永久に会えないかもと度を失ったが、同時に歓喜もしていた。
君が『外』と縁が切れ、この街に閉じ込められてしまったと分かったから」
好き勝手にキスをされながら、私は暴行犯を睨む。
「まだ諦めてません。こんな街だから、解呪の方法は必ずあるはずです。
それに……いいんですか? 私を手の内に抱き込んだら、もう以前のあなたを取り戻すどころじゃ……」
「すでに、変わってしまっている。もう十分だ」
スティーブンさんが起き上がる。
そして私を両腕で軽々と抱え、大股で歩き出した。
シャワールームの方だ。
「開き直ることにしたよ」
「…………」
「君にずっと、そばにいてほしい。
君を消そうとか逃がそうとか、僕の勝手で振り回すことは、もうしない」
それはそれで、ありがたいけども。
「一つ問題があるのですが」
「何だい?」
「ご好意はありがたいのですが、私からあなたへの感情はそこまででも無――」
「好きだよ、ハルカ」
都合の悪い箇所をシャットアウトし、悪い恋人は私にキスをしたのだった。