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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第3章 開き直られました



 信号が変わる。また車は走り出した。
 
「どこへ行くんですか?」
「妙な想像はよしてくれ。本当に僕のアパートメントだ。
 ただ君の荷物はまとめたままになってるから、自分でまた戻してくれ」

 マジかー。

「でも今度という今度は、殺されるかと思いました」

「君を犯して殺して、それで以前の自分に戻れるのなら、迷わずそうしたさ」

「…………」

 多分、嘘は言っていないのだろう。
 横顔を見上げた。道の先を見つめる顔は、先ほどよりは緊張が解けていた。

「だが、実際にそうしたところで、僕は空虚と罪悪感を抱える可能性が高いからね」

 ……そこまでシミュレーションしてたらしい。逆に怖い。

「『君が僕にかけた呪い』も、解くのが遅すぎたんだ」

「?」

「気がつけば手遅れになっていた。君が数日いなくなっただけで、クラウスに心配されるほど取り乱した。
 部下にもずいぶんと無様を晒し、無駄に働かせてしまった。
 ついに『あいつ』にまで苦言を呈されたよ」
「???」
 誰? クラウスさんやザップさんのことではなく?
 けど不思議と『あいつ』に心当たりが、ある気がした。

「『醜状見るに堪えず。所見、明瞭にされたし』だとさ」

 エラい手厳しいな。
 しかしスティーブンさんに、そんな物言いの出来る人って誰なんだろう?
 ダメだ、やっぱ分からん。

 そして車が停まる。スティーブンさんの高級アパートメントの前だった。
 見覚えのある外観にちょっと泣きそうになったけど、グッとこらえた。

「心配した。君を永久に失ったかと思ったとき、全ての血が凍りついた思いだった」

 手を引かれてエントランスのセキュリティを抜け。
 玄関を開けて中に入り――扉が閉まる。
 外と遮断された瞬間に抱きしめられた。

「ん……!」

 両手首を壁に押しつけられ、キスをされた。
「……っ……ん……!」

 抵抗する間もなく、舌を差し入れられる。
「……っ……!!」
 首を振ったが、角度を変えさらに深くを舐られただけだった。

「ん……」

 苦しい。熱で息が出来ない。気がつけば頭をかき抱かれ、さらに激しいキスをされる。
 足が浮き上がりそうになる。落ちないよう、反射的に相手に抱きついたら、知ってか知らずかさらに強く抱きしめてきた。
 スティーブンさんの息も荒い。余裕が全然ない。

 ……怖い。


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