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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第3章 開き直られました



 ヘルサレムズ・ロットから出られないと分かって。
 さ迷って、レオナルドさんに拾われて、新しい仕事を見つけて。

 誰に言われるまでもなく、あまりにも危ない橋だった。
 でも、自分一人で仕事を見つけて、初めてお金を稼いだときは、自分をとても誇らしく思った。

 そして、ああそうか、と思い至る。
 私は多分、一人になりたかった。

 車を走らせながら、スティーブンさんは私をチラッと見た。

「憂うつな顔だな。そこまで、あの狭いアパートの方が居心地が良かったのかい?」
「身の丈に合ってはいましたね。レオナルドさんも良い人だったし」

「あの場所は狭すぎる」
 ムッとしたようにスティーブンさん。

「現に少年は、君の呪いの影響をまともに受けていただろう?」

 ……冷蔵庫の物を全部ダメにしたり、朝寝坊させたり。
 しかも私の呪いには『疲れた人を寝かせてしまう』ものまである。

 あのままモ○ハンパーティー継続しても、疲れたあの二人を早めに寝かせてしまう可能性が大だった。

 私は深々とため息をついた。

「スティーブンさん。この呪い、真剣に解けないですかね。『外』の世界でも問題ありだけど、ヘルサレムズ・ロットでも精神が削れる生活になっちゃいますよ」
 スティーブンさんにコテンと頭を預け、おねだりしてみる。

「この街は、何でもありなんでしょう? なら、病院の先生がサジを投げても、まだ方法はあるかもしれません。
 私の『常春の呪い』を解く方法が!」

「この街は、何でもリスクと引き換えだ。
 深く浸食した呪いを引き剥がすなら、それなりの代償を負う覚悟がいる」
 相変わらず、シビアな物言いである。

「世知辛いもんですな」

「そうだよ。とりあえず、また僕の家に来ればいい。安心しなさい。ホテルは止めたから」

 スティーブンさんは車を暗い方向に走らせる。
 とても暗い方へ。

 なので言った。

「安心なんて出来ないですよ。これから私を犯して殺そうとしてる人に言われても、説得力ないし」

 信号で車が停まった。
 スティーブンさんは、ゆっくりと私を見る。

「少し、礼を失してるんじゃないか?」

「でも、そうするつもりなんでしょう?」

「……ああ、そうしたいね」

 なりふり構わず私を探し、周囲への面目丸つぶれとなった男はそう言って苦笑したのだった。



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