第3章 開き直られました
しばし沈黙があった。
「…………社外秘ではあるが、人道的理由だ。
弱者を食い物にする非合法組織を放置出来ないし、奴らはヘルサレムズ・ロットの『外』に販路を広げようとしているとのタレコミもあって――」
長々と続きそうだったので遮り、
「思い上がっているようですが、私を探そうとしてのことではありませんか?」
「…………!」
沈黙があった。やはりか。
病院から消えた私が、悪党共に捕まったと想定し、行き先は人身売買組織。
そこも含めた色んな場所を探し回っていたのだろう。
組織のナンバー2が。完全に私的な理由で!
「失礼ながら上に立つ方が、私情を交えまくった命令を下すのはどうかと――」
「…………」
ドンッと、私の顔の真横の壁に、高そうな靴が叩きつけられてる。
「ひっ」
冷気。深夜のひとけのない路地裏の壁。足ドンされております。
しかも、どういう仕組みなのか、ピシピシと靴底から氷が発生し、周囲の壁を侵食していく。
もう少しで私に届く! 氷が触れたら、絶対凍るっ!!
スティーブンさん、慈愛に満ちた笑顔で、
「誰のせいだ?」
「わわわわわ私のせいでございます!!」
「そう。全て君が悪い」
「そうでございます! レオナルドさんたちに冷えたピザを食わせかけたのも、スティーブンさんのお手をわずらわせる結果になったのも、呪いが浸食して手遅れになったのも、天候不良による野菜の値上がりも全て私が悪いんです!!」
「分かればよろしい。じゃ、行こうか」
ようやく足を下ろし、また私の手をつかんで引っ張って行くスティーブンさん。
私が従順になったことで、少し機嫌が良くなったのか鼻歌交じりである。
表通りに出ると、路肩に高級車が停めてあった。
私が助手席に乗ると、ドアがバタンと閉まる。
こっそりドアをいじったが、開けられなかった。
窓からレオナルドさんの部屋を見るが、カーテン越しにザップさんと馬鹿騒ぎしてる様子が見えるだけ。
楽しそうだ。私はあの中に入れない。
車はさっさと発進する。ハンドルを握るスティーブンさんは、私を見なかった。
そして、気落ちしてる自分に気づいた。
やっと、自分の足で歩けるようになったと思ったのに……。