第3章 開き直られました
「で、ですから、その……仕事は見つけたし、お金を貯めていずれ一人暮らしをするつもりで……」
しかし、いざ本人に対峙(たいじ)すると、ガクブルな声しか出ない。
「それまで暮らすのは僕の家でも問題はないだろう?
部屋は余っているし、防犯設備も万全だ」
『いいっすね金持ちは……』『番頭、マジで必死だな』
と、後ろからボソボソ聞こえた気がした。
「それにレオナルドだって、常春(とこはる)体質の君が家に居座っていれば困ることも多いんじゃ無いか?
なあ少年?」
突然視線を向けられたレオナルドさんはビクッとしつつも、
「い、いや、僕は別にハルカにいてくれて構わな――」
「迷惑だろう?」
と、氷の番頭。
本物のマフィアもかくやという、怒気のこもった視線であった。
「……冷蔵庫の物が全部ダメになるのは、ちょっと困るかなあって思ってました」
グサッ。言わされたとはいえ、それは確かに本音であろう。
だってレオナルドさん、私が来てからキンキンに冷えたコーラを飲めてないもんなあ。
「ほら、言っただろう、ハルカ。僕の家なら広いから問題はないし、僕は色々持てあましてる連中と違うから心配も無用だ。家を掃除してくれるのも助かる」
『断る理由はないだろう?』と。
あとレオナルドさんに対し、失礼すぎることをサラッと言ったな。
「……ええと……ええと……あ、用事を思い出しました!!」
私、ソファから飛び降りてドアに全力ダッシュするが。
「ヴィエント デル セロ アブソルート【絶対零度の風】!!」
目の前でドアが凍結し、壁ごと氷と化す。
『ぼぼぼ僕の家がーっ!!』『落ち着けレオ!! 今割って入ったら、おまえ、マジで凍らされっぞ!!』
後ろで何か聞こえた気もする。
恐る恐る振り向くと、ポケットに手ぇ突っ込んだ番頭が、殺意をこめた笑顔で、
「帰ろうか、ハルカ。長居しては迷惑だ」
今、この家の中で一番迷惑な存在は、あなたです。
スティーブン・A・スターフェイズさん!!
『怖いんですけど、マジ怖いんですけど!! 何であの人、あんなに必死なんですか!!』
『普段フるばっかで、フラれたことがほとんど無い奴が捨てられかけると、ああも見苦しいことになんだよ』
後ろでボソボソ言ってるのが聞こえるが、幻聴に相違ない。