第3章 開き直られました
「スティーブンさんには関係ありません」
ミネラルウォーターでサンドイッチを押し込むと、ぷいっと顔をそらす。
私を捜し回ってくれたことは、単純に嬉しい。気にかけてくれたことに感謝してる。
でもその反動なのか、私の選択全否定なことには、さすがにムッとする。
「その保護者面、いい加減にしていただけませんか?
私にかけたお金を返却いただきたいのでしたら、お給金から少しずつ支払っていきます。
私、もう帰りますね。『彼』が家で待ってますので」
……う、うん。嘘はついてない。待ってくれてる。
今日は先輩も呼んで、三人でモ○ハンやろーって話だったし。
レオナルドさんの先輩なら心配は無かろう。
「……ハルカ」
出て行こうとすると肩をつかまれた。
そして振り向かされ――キスをされた。
「ん……んん……っ……」
身体を叩いて抵抗したけど、離してくれない。
突っぱねる手首を押さえられ、背中を抱きしめられ、よりキスが深くなっただけだった。
夜とは言え、ここは街の中だと焦る。けど車内でイチャつくカップルなど、通行人は誰一人見ていなかった。
「……っ……!」
ねじ込まれるように、舌を入れられた。驚いて口をわずかに開けると、さらに奥深くに入り込む。
車の走行音と、ブレーキの音。雑踏。時折銃声と悲鳴。
なのに車内は静かだ。
舌を貪られる。絡み合う。息が、唾液が混ざり合う。
この前よりも、ずっと長い。苦しい。息がちゃんと出来ない。
身体が密着する。スーツ越しに伝わるスティーブンさんの心音が高い。
私の方は、それ以上だ。顔が熱くて仕方ない。
「キスはまだ、初々しいな」
やがて糸を引いて顔を離し、スティーブンさんが笑う。
車窓の外のネオンで、表情が見づらい。
「ハルカ……これから、ホテルに行かないか?」
「え」
意味するところは、さすがに分かる。
もう一度キスをされ、耳元でささやかれた。
「比べてみれば、どちらがいいか分かるだろ? 僕を試してみないか?」
「いや、その……」
熱が。鼓動が高い。自分でもパニックになっているのが分かる。
「だけど、そのですね、私は……あの……」
どうしていいか分からず、ボソボソ言い訳をしていると、顎をつかまれ、顔を上げさせられた。
もう一度唇が重なった。