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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第3章 開き直られました



 路地裏に逃げた。逃げて、逃げて、そりゃもう一生懸命に逃げまくった。

 だが。

「わっ!!」

 角を曲がったところで立ちすくむ。行く手が、荒削りの氷の壁に覆われていた。
「!!」
 戻ろうとすると、そちらも瞬時に氷の壁となる。

 足下も氷、周囲も氷、見渡す限りの氷……!

 さ、寒い!! 息が白い! 氷をぺちぺち叩いても、常温に戻らない!
 私の『常春の呪い』が完璧に無力化されてる!!

 閉じ込められた……!

「……やれやれ。あまりにも簡単に誘導に乗るから、いっそワザと乗っているのかとさえ思っていたよ」

 低い声に、ビクッとした。
 私は機械のようにぎこちない動きで、恐る恐る、声の方向を見る。

 氷を踏む、固い靴音。
 気だるそうに両手をポケットに突っ込み、氷の柱の間から現れた青シャツの男。
 多分、また寝不足なんだろう。目の下にクマを作り、血走った目をしている。

「スティーブンさん……」
 
 一歩、また一歩と氷を踏みながら、こちらに近づいてくる男。
 私はガタガタと歯の根がなるほど震え――。

「あらまあ! 奇遇ですね、スティーブンさん! こんなところで偶然お会いするだなんて!! あはははははっ!!――いだだだっ!!」

 久しぶりに頬を引っ張られ、ジタバタした。


「いや、本当に偶然だな、ハルカ!!
 まさかこんな街の中で、平然とウィンドウショッピングかい?
 君の痕跡を追って、深夜の街を走り回ったり、地下組織をつぶして回ったりした苦労が水泡に帰したようで何よりだよ!!」

 満面の笑顔。だが青筋立ててる!! 地下組織って何のことですか!
 多分スティーブンさん、限界値に近いな。

 それだけずーっと、私を探してて下さったらしい……。

 …………

「看護師へのワイロに、10ゼーロは少なすぎだったな。
 100ゼーロを渡したら、あっさりとバラしたよ。
 君に頼まれて嘘をついたことを。むろん僕は、その前にも医師に話を聞いている」

「あちゃー」

 私は耳をぎりぎりと、危険な感じにねじられながら、引きつり笑い。
 
 口止めとしては、あまりにも底が浅いとは、自分でも思ってた。

 でも一方でこうも思っていたのだ。

『本気で私と縁を切りたいと思ってるのなら、見え透いた嘘でも乗ってくれるのでは?』と。
 
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