第5章 君の計算を狂わせたい
「原くんの出すお化けって本物みたいで、あれはびっくりしちゃうよねー! 山崎くんが猛ダッシュで逃げたのもわかるなー!」
合宿場に帰ってしまったら、もう今日は終わってしまう。
明日になったら、皆とは別れることになる。
花宮とももう会えなくなってしまうかもしれない。
もっと何か話を。
今合宿所に帰ったら、花宮との時間が終わっちゃう。
「花宮は会った? 髪の長い女の人」
「越智さん酔っぱらってます?」
「え? やだなぁ、酔っぱらってないよ!」
「だったら俺が運んでやるって言ったの聞こえてませんでした?」
表情は暗くて見えないけど、さぞかしめんどくさそうな顔でもしてるのだろう。
花宮は大きくため息をつく。
そんなため息ばっかつかなくたっていいじゃん。
「だって……」
「だって?」
「……帰りたくない」
「はぁ?」
花宮にしては素っ頓狂な声をあげた。
めんどくさいことをしている自覚はある。
でもここで素直に帰ったら、本当にそれっきりになってしまいそうで。
私が頑なにマネージャー業を頑張ろうとしていたのも、今思えばこのバスケ部に自分の存在意義を作りたかったからかもしれない。
そうすれば花宮と会うことができるから。
私は必死に花宮との関わりをつなげていようとしていたんだろうな。
「明日になったら花宮とまた会えなくなるから……帰りたくない……」
うつむいて、膝を抱えたまま呟く。
「花宮のこと好きだから、ずっと一緒にいたい」
もっと早く、もっとうまく伝えられてたらよかったのに。
こんな言い方、ただの駄々っ子だ。
きっと花宮はこういうめんどくさい女は一番嫌いなタイプだろうな。
背後から一際大きなため息が聞こえた。
ああ……さすがに幻滅されたかな。
今回の合宿みたいに、もう気軽に頼られるなんてこともなくなるかもしれない。
本当にこれで花宮と最後になっちゃうのかな。
やばい、ちょっと泣きそう。
「怪我人が馬鹿なこと言ってないで、さっさと帰るぞ」
「わっ」
花宮は無理やり私の体を背負うと、私の決死の告白など聞いていなかったように歩きだした。