第5章 君の計算を狂わせたい
ザザザっと音を立てた花宮はものの数秒で崖を降りたようだ。
そこまで高い崖じゃないとは思ってたけど、思ってた以上に低く、せいぜい人の身長くらいしかなかったらしい。
これはもはや崖とは言えない高さだね。
私がずっと座り込んでいたからか、すぐ近くまで来た花宮に手をのばされる。
えーっと……
「足を捻りました」
「…………はぁ、ほんっと世話が焼けますね」
「うぅ、ごめんなさい」
何も言い返せない……。
「まあいいです、越智さんのアホな行動は今に始まったことじゃないんで。しっかしどうやったらこんな事になるんだか」
チカチカとスマホの明かりを顔から足元にまで向けられる。
見てみると服にも肌にも泥がついていて、
おまけに足首がぷくっと膨らんでいた。
うわっ、私の足首えげつなく膨れてる。
「その足だと歩けそうもないですね。しょうがないんで部屋まで運びますけど、明日が最終日でよかった……帰るまで部屋で安静にしててもらいますよ」
「えっ……」
私が落胆したような声を上げたからか、花宮が訝しげに眉をひそめた。
「……まだ何かやらかすつもりですか?」
「ち、違います! なんでもないです!」
終わりが近づくごとに、鼓動が落ち着かなくなる。
“最終日” “帰る”
それらの単語が花宮の口から発せられると、私と花宮の関係も終わりを迎えるんだと言われているような気持ちになる。
花宮はしゃがむと、ここに乗れというように背中を見せてきた。
心臓のあたりがますますぎゅっとなる。
こういう時に限って花宮は優しくなるからずるい。
その優しさに身をゆだねたい。
でも私はわざと無視して口を動かした。
「山崎くん、大丈夫かなぁ」
「……そのうち原あたりが見つけるだろ」
「そ、そうだね! 確かに原くんの魔法はすごいもんね!」
「そんなことはいいから、はやく乗……」
「いや〜! なんか寒くなってきたね?!」
山崎くんのことは心配。
だけど私がここまで山崎くんのことを真剣に探していたのは、まだ皆との日々を終わらせたくなかったからかもしれない。