第5章 君の計算を狂わせたい
花宮は黙ったまま崖にそって歩く。
私の言葉伝わらなかったのかな。
花宮は大事な時に何も答えてくれない。
それでもこうして怪我をした私を運んではくれる。
もういっか。
あれだけ言って伝わらなかったのならしょうがない。
それよりもこうやって運んでくれてる彼の優しさに今は存分に甘えることにしよう。
「花宮って、意外と面倒見いいよね」
「……まあ自分の犬なんで。世話くらいはします」
何となくこぼした言葉に意外な答えが返ってきた。
「……犬?」
犬って私のこと?
「俺の犬になるって言ったの忘れましたか?」
「そんなこと……」
言った……かもなぁ。
"
「俺の犬になれ。絶対服従だ」
「はぁ!?」
「お前にそれ以外の選択肢はない」
"
確か私の家に突然花宮が現れてすぐのことだった。
一ヶ月も経ってないはずなのに、すごく昔のことのように思える。
「飼い主の責任として、一生世話してやるよ」
「……え?」
「だから、せいぜい俺に飽きられないように必死に尻尾張ってるんだな」
特に気負うわけでもなく、さらっと言われたから聞き流すところだった。
一生……って言った?
それってプロポーズみたいだよ?
「…………花宮、花宮、花宮!」
「痛いんで暴れないでください」
嬉しさから私が花宮の肩を叩くと、聞き慣れた呆れ声が前から聞こえてくる。
これからも花宮と一緒にいていいんだ。
花宮が喜ぶならいくらでも尻尾を振ろう。
「一生そばにいさせるってことは、つまり私のこと好きってこと?」
「んなわけねえだろ、バァカ」
そう言って振り返った花宮の顔は、はじめて高校生らしく見えた。